現在はIT業界の発達や働き方改革の推進によって、様々な事業の形態を耳にするようになりました。その中の1つが「スタートアップ」です。
事業の形態によって強みや注意点、活用できる制度などが異なるため、各事業形態の違いを適切に理解しましょう。
今回は、スタートアップの意味やベンチャーとの違い、スタートアップで成功した企業の例などを解説しています。各解説を経営者や起業家目線で解説しているため、起業に興味のある方はぜひ参考にしてください。
目次
スタートアップとは
スタートアップとは主に以下の2点を重視している企業の形態です。
・新しい事業を短期間のうちに成長させる
・全く新しい市場を開拓する
短期間で事業の成長を目指すため、基本的に長期的な視点で事業を成熟させる戦略は取りません。このような特徴があるため、短期間で勝負を行う一時的組織とも言われています。
ただし、短期的であっても事業が成功して規模が拡大していけば、大企業へと成長するケースも数多くあります。
また、既に確立されたビジネスモデルではなく、全く新しい事業で起業を行う点も特徴です。
スタートアップとはアメリカのシリコンバレーで生まれた概念です。スタートアップが広まった背景としてIT業界の躍進があるため「スタートアップ=IT業界」といったイメージを持つ方もいるでしょう。
実際にIT業界のスタートアップは多いですが、実際は業種に関係なく新しいアイデアや革新的なサービスを開拓し、短期間で急激に成長する企業や事業に幅広く使われる概念となります。
スタートアップの特徴
スタートアップは、ビジネスプランから資金調達方法など、幅広い要素で他の事業の形態と大きく異なります。
ここでは、スタートアップの特徴を大きく5つの視点から解説します。
ビジネスモデル
スタートアップのビジネスプランは「イノベーションによる課題解決」を最大のテーマとしています。
イノベーションとは、革新的な商品やサービス、技術によって新たな価値を生み出すことです。そして、新たに生み出した価値によって社会に革新的な変化を生み出すビジネスモデルが、スタートアップの特徴です。
これまでの常識にはないビジネスモデルが多いため、事業の立ち上げ当初は中々社会に理解されず、受け入れられないと考えましょう。反対に言えば、今まで誰も手を付けていない分野に挑戦するからこそ、大きな影響力や利益を生み出せる可能性があるのです。
近年で言えば、AI分野やSNS分野などがイノベーションを実現したビジネスモデルの例と言えるでしょう。
事業の成長速度
スタートアップが成功する場合、短期間で一気に事業が成長します。「Jカーブ」のような成長曲線を達成できれば理想です。
他の事業形態の場合は、既存の市場に自社の立ち位置を確保して安定化を目指すため、中期的もしくは長期的な事業計画の策定が一般的です。
しかしスタートアップは、全く新たな市場で課題解決を目指します。そのため、短期的な事業計画を策定するケースが多いです。
資金調達手段
スタートアップ企業の資金調達は、個人投資家やベンチャーキャピタル(VC)と呼ばれる投資会社からの投資によって行うのが一般的です。起業時に融資を受けるケースが多い他の事業形態との大きな違いと言えます。
投資による資金調達は、融資とは異なり返済義務が発生しません。また、資金の援助と同時に経営に係る知識やノウハウの提供を受けられる点も成長を加速させる要因となるでしょう。
しかし投資家側の最大の目的は、企業に投資を行って利益を得る点です。そのため、投資に見合った成果を生み出せなければ、それ相応の対応を迫られるケースもあります。
メリットとデメリットを理解したうえで有効に活用していくのがおすすめです。
人材の構成
スタートアップ企業の創業当初は、少ないメンバーで事業を始めるケースがほとんどです。
また、個々に専門性と高い能力を持つ人員で構成される点も特徴です。短期的に成果を出すために最も効率的な構成を行います。
事業の立ち上げ後に一定の成果を得て、徐々に規模の拡大を行う段階になると、次に必要になる人員は即戦力です。
中・長期的な戦略に基づいて人員の採用や育成を行う一般企業とは異なり、短期的な速度で目標を達成するために必要なメンバーを求めていきます。
最終目的
スタートアップの最終目的な以下のいずれかになります。
・バイアウト
・IPO
バイアウトとは事業売却を意味し、上場の有無に関わらず企業が大きな利益を生み出した段階でM&Aを実施します。中・長期的な事業の利益ではなく売却益で大きな利益を出せる点が特徴です。
また、IPOとは新規に株式を上場することです。上場によって知名度や信用力を得られ、企業のさらなる成長に向けて事業を続けます。他方で起業当初に投資してくれた投資家は、上場前から保有していた持ち株を上場後に売却し、大きな利益を得られます。
事業の立ち上げの段階からどのような出口戦略を取るかを決めておけば、スムーズな資金調達や経営方針のイメージの確立に繋がるでしょう。
他の事業形態との違い
スタートアップと似た概念に「ベンチャー企業」があります。また、中小企業やスモールビジネスとスタートアップを混合している方も少なくありません。
そこで以下では、スタートアップと他の起業形態の違いを解説します。
ベンチャーとの違い
スタートアップと頻繁に比較される概念が「ベンチャー」です。ベンチャー企業とスタートアップ企業の大きな違いは、ゴールの設定にあります。
スタートアップは短期間で急激な成長を目指しています。
一方でベンチャーは、中・長期的な視野で収入の安定化と成長を見込んでいる点が特徴です。大企業では実施しにくい新規事業の展開を行う中小企業を指します。
また、既存の企業が新規事業などに取り組む場合もベンチャーという言葉が使われる場合もあります。「起業」だけがベンチャーとは限らない点に留意しましょう。
中小企業との違い
短期間で急激な成長を見込むスタートアップとは異なり、低成長でも収益をあげながら中・長期的な成長を見込み、事業を存続させていく企業の形態が中小企業です。
比較的穏やかに長期的な成長を見込む中小企業はVCからの資金調達が難しいです。金融機関などからの借入が主な資金調達手段になります。
また、上記したのベンチャー企業は、中小企業の企業形態の1つとなります。
スモールビジネスとの違い
スモールビジネスはスタートアップとは異なり、革新的なビジネスモデルや急激な事業の成長を前提にしていません。安定的に中・長期的な成長を目指しており、既存の市場をベースとして新規参入するケースがほとんどです。
スモールビジネスは初期投資が少なく損益分岐点も低い傾向にある点が特徴です。そのため、資金調達が不要なケースも多く、現在増加傾向にある事業の形態の1つとなっています。
スタートアップのメリット
スタートアップは他の起業形態にはない特徴が数多くあるため、複数のメリットがあります。メリットを最大限に活かせれば、大きな利益や将来に繋がるスキルの習得に繋がるでしょう。
ここでは、スタートアップの形態で起業を行うメリットを解説します。
大きなリターンを得られる可能性がある
スタートアップの出口戦略として、バイアウトとIPOのいずれを選ぶにせよ、短期的な期間で莫大なリターンを得られる可能性があります。
数年で企業の上場を目指すことも十分に可能で、上場企業の経営者となれれば認知度や安定性も急激に向上します。株価も上昇するため、株式を有していればさらなる利益が生じるでしょう。
また、バイアウトを選択する場合、一気に億単位の収益を得られます。その資金によって、次の事業の立ち上げやアーリーリタイアなど、自身の将来像に合わせた行動が取れるようになるでしょう。
実業家として成長できる環境
スタートアップは実業家として一気に成長できる環境になっています。
今までにない着眼点で事業計画を作成し、人員の採用や資金調達、マーケティング、事業の拡大、上場など事業のあらゆる経験やスキルを短期間の間に習得できます。
スタートアップを経験すれば、今後の起業に役立つのはもちろん、アドバイザーやベンチャーキャピタル側での活動も見えてくるでしょう。
本来は中・長期的な時間をかけて経験・習得する部分を、短期的な時間で幅広く経験できる点が大きなメリットの1つになります。
やりがいが大きい
スタートアップは、既存のビジネスモデルではなく全く新しいビジネスモデルを世に出します。
ゼロから一を生み出す事業の形態であり、社会貢献に繋がるビジネスモデルも多いため、達成感や世の中に役に立つやりがいを得られます。
既存のビジネスモデルをベースにする他の企業の形態にはない魅力と言えるでしょう。
スタートアップのデメリット
一方で、他の企業の形態とは異なる点から、デメリットに繋がる部分もあります。これから起業を行う方は、これらのデメリットを受け入れられるか否かを判断しましょう。
ここでは、スタートアップのデメリットを3点解説します。
リスクが高い起業となる場合がある
スタートアップは高いリターンを目指せる一方で、リスクも他の事業形態よりも高い傾向にあります。スタートアップの事業のリスクが高くなる要因は以下の2点です。
・必ずしも事業が成功するとは限らない
・高い初期費用が必要となる場合がある
起業後に利益が出ない期間は、企業の資金を用いて事業を存続させる必要があります。成功せずに赤字の期間が長引けば、それだけ損失の額が大きくなることを指す点に注意しましょう。
長期的な視点で地道に事業を行いたい場合といった場合は、スモールビジネスでの起業がおすすめです。
ハードワークとなる可能性がある
スタートアップの経営者はハードワークになる可能性があります。
一般企業と比較して少人数での体制であり、短期間で結果を出すことが前提の事業計画となっているためです。
また、リスクの大きさから重圧を感じてしまう場合もあり、心身共に疲弊してしまう可能性があります。
ビジネスモデルを一から考える必要がある
スタートアップ企業を立ち上げるには、ビジネスモデルを一から考える必要があります。
ゼロから一を作り出す起業アイデアを出すのは決して簡単ではありません。つまり、スタートアップを立ち上げる難易度は、既存のビジネスモデルをベースとする企業よりも難しいと言えるでしょう。
スタートアップ企業が活用できるサービス
スタートアップの成功確率を上げるためにも、様々な制度やサービスの活用がおすすめです。
そこで以下では、スタートアップ企業が活用できる制度やサービスを5点ご紹介します。東京都で実施されている制度やサービスが多いですが、各都道府県で様々な支援が行われているため、ぜひ調べてください。
J-Startup
J-Startupは世界的に活躍できるスタートアップを日本で生み出すことを目指した組織です。
日本のスタートアップ企業の中から「J-Startup企業」を選定し、以下のような幅広いサポートを実施します。
・事業スペースの提供
・実証実験への協力
・専門家やノウハウを持つ方からのアドバイス
・ビジネスマッチング
・国内外メディアによるPR など
海外展開の支援にも力を入れられているため、世界的に革新的なサービスや商品を広めたいといった方におすすめです。
参考:J-Startup
StarT!Ps from NEDO
StarT!Ps from NEDOでは、スタートアップ向けの支援事業や制度がまとめられています。
支援内容や分野に合わせて検索できる機能もあるため、スタートアップ支援を受けようとしている事業者におすすめです。
東京創業ステーション
東京創業ステーションは、各種相談やイベント・セミナーの開催を実施している施設です。
これから起業準備を始める方から、既に起業準備を進めている方向けの様々な支援が行われています。
起業家同士の交流ができる点も特徴であるため、人脈形成や情報交換にも活かせるでしょう。
参考:東京創業ステーション
東京開業ワンストップセンター
東京開業ワンストップセンターでは、各施設が連携して様々な面から創業前後の事業者の支援が行われます。
【東京開業ワンストップセンターの支援内容の例】
・各種相談業務(法人設立・税務申請・資金調達・各種保険など)
・各種セミナーの実施
・各種申請手続きや申請書の提出の受付
特に起業前後は馴染みのない様々な手続きが必要です。東京開業ワンストップセミナーならば、ワンストップで各種手続きや相談ができるため、効率的な起業手続きや経営のサポートとなるでしょう。
TOKYO STARTUP GATEWAY
TOKYO STARTUP GATEWAYは、NPO法人ETICが運営、東京都が主催のビジネスプランコンテストです。
実際の起業家などから、アイデアのブラッシュアップに関するアドバイスを受けられる機会があります。また、入賞できれば活動資金や賞金、様々な起業支援が提供されるため、より有利に事業を進められるでしょう。
ただし、ビジネスプランコンテストへの参加によって、ビジネスアイデアの流出に繋がる恐れがある点に注意しましょう。
メリット・デメリットや、他のビジネスプランコンテストについては以下の記事で詳細に解説しています。参加に興味のある方はぜひご覧ください。
スタートアップで失敗しないためのポイント
上述した通り、スタートアップはハイリスクハイリターンな特徴があります。成功の確率の少しでも上げられるように、失敗しないためのポイントを押さえた企業運営を行いましょう。
ここでは、スタートアップで失敗しないためのポイントを3点解説します。
やりたいことを優先しすぎない
自分が満足できる商品やサービスを作っても「売れない」「流行らない」といった事態は多々あります。自分が良しとしても、市場にニーズがなければ事業として成立しません。
特に新たな市場を開拓するスタートアップでは、本当にニーズのある商品・サービスかを入念に調査する必要があります。
自身のやりたいことと、消費者のニースのミスマッチを起こさないためにも、念入りな事業計画書の作成が必要です。入念な市場調査や財務計画を基に、シミュレーションを繰り返し、客観的な視点で成功できるかを判断しましょう。
事業計画書については以下の記事で詳細に解説しています。事業計画書の概要や項目が分からない方はぜひ参考にしてください。
適切なチーム編成を行う
事業を急成長させるには、専門性と高い能力を有しているメンバーで人員構成を行う点が重要です。
「信頼できる」「学生時代から仲が良かった」といった要素も一緒に働くうえで重要ですが、必ずしもベストメンバーとは限りません。
事業が成長していくにつれて、創業メンバーと途中で喧嘩別れをした例もあります。
スタートアップの成功に必要な能力や人数を明確にして人員の構成を考えましょう。
資金繰りを考える
事業を立ち上げる前に、資金繰りを入念に考えておきましょう。
スタートアップの場合、企業を立ち上げても一定期間は資金を減らしながら活動を行うことになります。人件費や事務所の賃料など、固定費が毎月発生し、資金が枯渇すると事業の存続ができなくなります。
そのため、利益が出るまでにいくら必要かを正確に判断し、余裕を持って起業資金を準備しましょう。
バーチャルオフィスやレンタルオフィスの活用も検討
資金繰りを考えるうえで、バーチャルオフィスやレンタルオフィスの利用も検討しましょう。
企業の事業所を賃貸すると、家賃の10ヶ月~12ヶ月分程度の初期費用が発生し、毎月の固定費も増加します。一方で自宅をオフィスにしても、以下のようなデメリットが発生します。
・郵便物や住所の公開によるプライバシーの問題
・アパートやマンションの住所による信頼性の低下
・法人登記ができない物件
・家族の生活音やプライベートとの混合による作業効率の低下
そこで、バーチャルオフィスやレンタルオフィスの利用によってこれらのデメリットを解決できます。
バーチャルオフィスとは、事業用の住所をレンタルできるサービスです。ビジネス街や有名ビルの住所を事業所とできるため、プライバシーや信頼性の向上に繋がります。
また、レンタルオフィスとは、専有できる個室をレンタルできるサービスです。最低限の費用で事業用の住所や執務スペースを確保できます。
さらに、事業に役立つ様々なサポートを提供しているバーチャルオフィス・レンタルオフィス業者もあるため、事業をより有利に進められるでしょう。
スタートアップで成功した企業の例
日本のスタートアップの例には、楽天やサイバーエージェントが該当します。どちらも今では成功を収めた大企業です。
その他にも最近のスタートアップ成功事例としては以下の会社があります。
株式会社メルカリ
フリマアプリの「メルカリ」は、実際のフリーマーケットのように、出品者の不要なものが出品され、それを欲しい人が買う仕組みをスマホ上で可能としたサービスです。
2013年に創業され、2018年に上場。2021年には年商1,000億円以上を達成するなど、爆発的な成長を果たしました。
参考:株式会社メルカリ
ラクスル株式会社
ラスクル株式会社は高品質な印刷物を低単価で提供する、印刷や広告のシェアリングプラットフォーム「ラクスル」を提供している企業です。
ラクスルは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」のビジョンを掲げ、デジタル化が進んでおらず縮小傾向にあった印刷業界をメインにITを用いて新たな仕組みを導入しました。
現在は、広告や物流といった領域にも進出し急成長を続けています。
参考:ラクスル株式会社
freee株式会社
freee株式会社は、クラウド型会計ソフト、人事労務ソフト「freee(フリー)」などを運営している企業です。スモールビジネスのバックオフィス業務を効率化するクラウドサービスを開発・提供しています。
特徴は簿記の知識がない方でも簡単に使える全自動クラウド型ソフトである点です。銀行などのWeb口座と連動し、自動で会計帳簿が作成できる点が話題を呼び、急成長を遂げました。
参考:freee株式会社
まとめ
今回はスタートアップの概要や特徴、メリット・デメリット、成功例などを解説しました。
スタートアップは急激な事業の成長により大きなリターンを得られる一方で、他の事業形態よりもリスクが高いデメリットもあります。
少しでもリスクを抑えて事業を立ち上げるためにも、チーム編成や事業計画に目を向けて、適切な準備を行って起業に臨みましょう。
この記事の執筆者
久田敦史
株式会社ナレッジソサエティ 代表取締役
バーチャルオフィス・シェアオフィスを通して1人でも多くの方が起業・独立という夢を実現し、成功させるためのさまざまな支援をしていきたいと考えています。企業を経営していくことはつらい面もありますが、その先にある充実感は自分自身が経営をしていて実感します。その充実感を1人でも多くの方に味わっていただきたいと考えています。
2013年にジョインしたナレッジソサエティでは3年で通期の黒字化を達成。社内制度では週休4日制の正社員制度を導入するなどの常識にとらわれない経営を目指しています。一児のパパ。趣味は100キロウォーキングと下町の酒場めぐり。
【学歴】
筑波大学中退
ゴールデンゲート大学大学院卒業(Master of Accountancy)
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