この記事では、日本人の起業の実態について、以下の内容を解説しています。
・起業率
・起業意識
・男女比
・年齢
・起業形態
・開業費用
・起業率が低い理由
日本の起業率は世界的に低めで、これには想定できる理由があります。
公的機関のデータを中心にご紹介しているので、日本の起業実態の把握に役立ててください。
また記事後半には日本国内で起業するメリットや、起業の方法も解説しているため、ぜひご覧ください。
目次
日本で起業する人の割合とは
「2022年度版中小企業白書」によれば、2020年における日本の企業の開業率は5.1%です。
この値はアメリカやイギリス、フランスといった世界水準と比較して低い値となっています。
国名 | 開業率 |
日本 | 5.1% |
アメリカ(2019年) | 9.2% |
フランス(2019年) | 12.1% |
イギリス | 11.9% |
ドイツ(2019年) | 9.1% |
日本の開業率は上記の国々の約半分であるため、起業に活発な国ではないと判断できるでしょう。
なお開業率とは、期首に存在していた企業数に対する新規に開設された企業数の割合を指します。
日本の都道府県別の開業率
同じく「2022年度版中小企業白書」によれば、日本の都道府県別の開業率の上位5つと下位5つは以下の通りです。
都道府県 | 開業率 |
1.沖縄県 | 8.8% |
2.埼玉県 | 6.0% |
2.東京都 | 6.0% |
2.福岡県 | 6.0% |
5.愛知県 | 5.9% |
42.富山県 | 3.3% |
42.島根県 | 3.3% |
44.岩手県 | 3.2% |
44.新潟県 | 3.2% |
46.青森県 | 2.9% |
47.秋田県 | 2.7% |
全国計 | 5.1% |
一見地方の開業率が低いように見えますが、平均以上の値を記録している地方も多いです。
地方での起業には複数の成功要因があるため、気になる方は以下の記事をご覧ください。
日本の起業の廃業率
「2022年度版中小企業白書」によれば、2020年における日本の企業の廃業率は3.3%です。
アメリカやイギリス、フランスなどと比較して低い値となっています。
国名 | 開業率 |
日本 | 3.3% |
アメリカ(2019年) | 8.5% |
フランス(2019年) | 4.6% |
イギリス | 10.5% |
ドイツ(2019年) | 12.5% |
ただし、一概に廃業率が低いから優れているとはいえません。
上述したように、日本は開業率が低いため必然的に廃業率も低くなりやすいです。
また開業率と廃業率が低いと国内で競争が生まれず、生産性や雇用創出力の低下に繋がります。
そのため、いかに起業率を高めるかが日本の重要な課題の1つといえるでしょう。
日本人の起業意識
全国の18歳から69歳までの方を対象とした日本政策金融公庫の「2023年度起業と起業意識に関する調査」によれば、以前も現在も起業に関心がない「起業無関心層」の割合は77.6%です。
類型 | 割合 |
起業家 | 1.2% |
パートタイム起業家 | 6.4% |
起業関心層 | 14.9% |
起業無関心層 | 77.6% |
起業関心層もしくは起業家(パートタイム起業家を含む)は4分の1以下しか存在しません。
また内閣官房の「スタートアップに関する基礎資料集」では、日本で「起業を望ましい職業選択」と考える人の割合は24.6%とされています。
国 | 起業を望ましい職業選択と考える人の割合 |
日本 | 24.6% |
中国 | 79.3% |
アメリカ | 67.9% |
イギリス | 56.4% |
ドイツ | 53.6% |
さらに「2017年度版中小企業白書」によれば、日本人の起業意識は以下の5項目全てでアメリカやイギリス、ドイツ、フランスよりも低い結果でした。
・周囲に起業家がいる
・起業に成功すれば社会的地位が得られる
・周囲に起業に有利な機会がある
・授業することが望ましい
・起業するために必要な知識、能力、経験がある
上記の点から、日本の起業意識の水準は低めといえるでしょう。
日本人の起業の男女比
日本政策金融公庫による「2023年度新規開業実態調査」によれば、日本政策金融公庫が融資した新規開業者のうち75.2%が男性、24.8%が女性という結果が出ています。
女性開業者の割合が過去最大となっています。
男性比率 | 女性比率 | |
1995年 | 86.7% | 13.3% |
2000年 | 85.6% | 14.4% |
2005年 | 83.5% | 16.5% |
2010年 | 84.5% | 15.5% |
2015年 | 83.0% | 17.0% |
2020年 | 78.6% | 21.4% |
2023年 | 75.2% | 24.8% |
本調査は日本政策金融公庫による融資を受けた方が対象のため、融資を必要としないプチ起業家や副業起業家は含まれていません。
これらの起業形態を含めると、女性起業家の割合はさらに増える可能性があります。
女性にも人気のプチ起業については以下の記事で詳しく解説しているため、興味のある方はぜひご覧ください。
日本人の起業の年齢
日本政策金融公庫による「2023年度新規開業実態調査」によれば、起業家の開業時の平均年齢は43.7歳です。
平均年齢は近年上昇傾向にあり、2023年は2020年、2021年に並んで過去最高となりました。
起業時の平均年齢 | |
1995年 | 39.7歳 |
2000年 | 41.6歳 |
2005年 | 43.0歳 |
2010年 | 42.6歳 |
2015年 | 42.4歳 |
2020年 | 43.7歳 |
2023年 | 43.7歳 |
また年齢の構成比にも着目すると、29歳以下の起業が減少傾向にあり、40歳代以上の起業は増加傾向にあります。
起業時の年齢については、どの年代での開業にもメリット・デメリットがあります。
年齢によって生じるメリットを最大限に活かして、デメリットを最小限に抑えられれば事業の存続率が高まるでしょう。
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日本人の起業の形態
日本政策金融公庫の「2023年度起業と起業意識に関する調査」によれば、起業家のうち84.8%が週の稼働時間35時間未満の「パートタイム起業家」という結果が出ています。
現在は副業の推進やIT技術の発達によって、自宅でも比較的簡単に事業を始められるようになりました。
その結果、会社員の仕事帰りや主婦のスキマ時間などで働く起業にも注目が集まっています。
また「令和4年就業構造基本調査」によれば、有業者のうち本業がフリーランスの方は209万人です。
有業者の人数が6,706万人なので、3.1%の方がフリーランスの働き方を選んでいる計算となります。
フリーランス人口は年々増加傾向にあり、今後も注目を浴びる起業形態の1つとなるでしょう。
フリーランスの概要やメリット・デメリットなどは以下の記事で詳しく解説しています。
日本人の起業の開業費用
日本政策金融公庫の「2023年度新規開業実態調査」によれば、起業家の開業費用の平均値は1,027万円、中央値は550万円となっています。
開業費用の平均値・中央値 | 平均値 | 中央値 |
1995年 | 1,770万円 | 1,000万円 |
2000年 | 1,537万円 | 895万円 |
2005年 | 1,536万円 | 705万円 |
2010年 | 1,289万円 | 620万円 |
2015年 | 1,205万円 | 720万円 |
2020年 | 989万円 | 560万円 |
2023年 | 1,027万円 | 550万円 |
年々起業費用は減少傾向にあります。
また本調査は日本政策金融公庫が融資をした事業者が対象なので、融資を必要としない小規模事業者を含む場合はさらに平均値や中央値が低下する可能性が高いです。
起業資金は以下のような方法で調達することが一般的です。
・自己資金
・融資
・出資
・補助金・助成金
・クラウドファンディング など
それぞれメリット・デメリットがあるため、事業の実態に合わせて選択しましょう。
起業時の資金調達方法については以下の記事で詳しく解説しています。
日本の起業率はなぜ低い?
上述した通り、世界と比較した日本の起業率は低いという結果が出ています。
ここでは、日本の起業率が低い理由を4つ解説します。
公的な起業手続きが複雑
起業環境の国際比較をした調査によれば、以下のような結果が出ています。
国名 | 起業のしやすさ世界順位 | 起業に要する手続数 | 起業に掛かる日数 | 開業コスト |
日本 | 89位 | 8 | 11.2日 | 7.5% |
アメリカ | 51位 | 6 | 5.6日 | 1.1% |
イギリス | 16位 | 4 | 4.5日 | 0.1% |
ドイツ | 114位 | 9 | 10.5日 | 1.9% |
フランス | 27位 | 5 | 3.5日 | 0.7% |
開業コストとは、1人当たりの所得に占める金額の割合です。
このように、日本の起業に関する制度は複雑で費用もかかります。
開業コストがかかり、手続きも複雑なことが起業のハードルを上げる要因の1つとなっている可能性があります。
起業家育成の環境が整っていない
「2014年度版中小企業白書」によれば、日本の起業家教育を評価したアンケートで以下のような結果が出ています。
十分である | 1.7% |
概ね十分である | 4.2% |
どちらともいえない | 27.4% |
やや不十分である | 26.0% |
不十分である | 40.8% |
66.8%の方が、日本の起業家育成を「やや不十分」もしくは「不十分」と評価しています。
一方で「十分」もしくは「概ね十分」と回答した方は僅か5.9%です。
起業家教育が不十分で、ビジネスに関するノウハウや手続きが備わっていないことが、起業率が伸びない原因の1つといえるでしょう。
安定性を求める人が多い
「2014年度版中小企業白書」の「我が国の開業率が低い理由として考えられるもの」の調査項目では、以下のような回答結果が出ています。
項目 | 「低い理由として考えられるもの」と回答した方の割合 |
起業した場合に、生活が不安定になることに不安を感じるため | 36.9% |
個人保証の問題等、起業に失敗した際のセーフティーネットが整備されていないため | 33.8% |
大企業への就職等、安定的な雇用を求める意識が高いため | 29.6% |
これらの3つは非常に割合の高い3項目となっています。
「起業は不安定でリスクが大きい」という考えから、中々行動に踏み出せない方が多いと想像できるでしょう。
起業が身近でない
起業の選択肢が一般的でない日本では、起業が身近な存在でないことが多いです。
そして、起業が身近でないと起業への関心が低くなるという結果が出ています。
「2014年度版中小企業白書」では、周囲の起業家の存在と起業の関心度について以下のような結果が出ています。
起業の関心度 | 周囲に起業家がいない人の割合 |
起業無関心者 | 66.1% |
潜在的起業希望者 | 54.1% |
起業希望者 | 32.9% |
起業準備者 | 24.6% |
起業家 | 33.6% |
周りに起業家がいる人ほど起業に対する関心度が高いようです。
上述した理由から起業率が低くなり、その結果多くの方にとって起業が身近でないという連鎖が生じているといえるでしょう。
日本で起業を行うメリット・強み
日本の起業率は低いですが、日本国内で起業を行う強みも存在します。
ここでは3つのメリットを紹介します。
市場が大きい
日本は世界3位の経済大国なので、市場規模が大きい環境でビジネスを展開できます。
全体の市場規模が大きければ見込める収益も大きくなり、ニッチな業種でも戦える可能性があります。
また市場規模が大きければ急激に経済が廃れる可能性も低いため、事業を存続させやすくなるでしょう。
言語の壁に守られている
日本は言語の壁に守られており、海外の事業者が日本でビジネスを成功する難易度は高いです。
そのため、日本国内のみで事業を展開する場合、競争相手は日本の事業者となるケースが基本です。
一方で英語圏内の国だと、海外の事業者が競合になるケースも多く、起業の成功の難易度が上がる可能性があります。
競争相手が少ない
上述した通り、日本の起業率は世界水準で低めです。
日本経済全体で見ると生産性や雇用創出力の低下を生みますが、1つの事業者目線で考えると、競争相手が少ないとも考えられます。
起業に興味がある人が少ない社会の中で積極的に行動できれば、大きな成功を成し遂げられる要因となるでしょう。
日本国内で起業する方法とは
起業と聞くと「株式会社の設立」とイメージする方が多いです。
しかし、合同会社の設立や個人事業主としての開業も有力な起業方法です。
ここでは、個人事業の開業と法人設立に分けて特徴やメリットを紹介します。
個人事業の開業
管轄の税務署に開業届の提出を行い、個人事業主として事業を営む起業形態です。
フリーランスの働き方をする場合も基本的には個人事業主での起業となります。
起業形態で個人事業主を選ぶ主なメリットは以下の通りです。
・起業手続きが容易かつ無料
・所得が低い時期は税率も低い
一方で以下のようなデメリットがあります。
・法人よりも社会的な信用が低い
・利益が大きいと税率が高くなる
事業が軌道に乗った段階で法人成りもできるため、基本的に最初は個人事業主としての開業がおすすめです。
個人事業主のメリット・デメリットや必要な手続きなどは以下の記事で詳細に解説しています。
法人の設立
一方で法人の設立とは、法務局に登記をして「株式会社」や「合同会社」などを立ち上げる起業形態です。
法人を設立して起業する主なメリットは以下の通りです。
・社会的な信用力を得られる
・利益が大きいと個人事業主より税負担が軽い
・経費にできる範囲が広い
一方で以下のようなデメリットもあります。
・設立手続きが複雑で費用もかかる
・個人事業主にはない手続きや維持費が必要
・利益が少ないと税負担が重い
また「株式会社」と「合同会社」でも様々な違いがあります。
特に費用を抑えて起業したい方や、事業規模が小さい方などは合同会社の設立がおすすめです。
合同会社の特徴や設立の流れなどは以下の記事で詳細に解説しています。
まとめ
今回は日本における起業の現状や、起業率が低い理由、日本国内で起業するメリットなどを解説しました。
世界各国と比較して日本の起業率は低く、起業関心層も少ないです。
その理由としては公的手続きが複雑で教育環境も整っておらず、安定性を求める方が多いなどが挙げられます。
しかし、日本国内での起業には成功に繋がる強みやメリットもあります。
これから起業を目指す方は、日本の起業の特徴や自分に合った起業形態を見つけて事業計画の作成から始めてみましょう。
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この記事の執筆者
久田敦史
株式会社ナレッジソサエティ 代表取締役
バーチャルオフィス・シェアオフィスを通して1人でも多くの方が起業・独立という夢を実現し、成功させるためのさまざまな支援をしていきたいと考えています。企業を経営していくことはつらい面もありますが、その先にある充実感は自分自身が経営をしていて実感します。その充実感を1人でも多くの方に味わっていただきたいと考えています。
2013年にジョインしたナレッジソサエティでは3年で通期の黒字化を達成。社内制度では週休4日制の正社員制度を導入するなどの常識にとらわれない経営を目指しています。一児のパパ。趣味は100キロウォーキングと下町の酒場めぐり。
【学歴】
筑波大学中退
ゴールデンゲート大学大学院卒業(Master of Accountancy)
【メディア掲載・セミナー登壇事例】
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