現在は、高校生や大学生のうちからビジネスを立ち上げて活躍している学生起業家も多いです。
若いうちに事業経験を積め、柔軟性や体力も強みとなる学生起業ですが、資金調達が大きな課題となります。
資金調達は事業の成功を左右する重要な要因であるため、学生起業の資金調達方法や必要な資金額を適切に理解しましょう。
本記事では、学生起業で必要な資金額や資金調達方法、注意点などを解説しているので、ぜひご覧ください。
目次
学生起業で必要な資金とは
学生が事業を立ち上げる際は、綿密な事業計画を作成して正確な必要資金を算出することが大切です。
必要な資金額がわからないと、適切な資金調達方法が判断できないだけでなく、曖昧な事業計画と判断されて審査に落ちる原因にもなります。
ここでは、学生起業で必要な資金の目安を解説します。
起業資金の平均値・中央値
日本政策金融公庫の「2023年度新規開業実態調査」によれば、2023年における開業費用の平均値は「1,027万円」、中央値は「550万円」となっています。
平均値 | 中央値 | |
2016年 | 1,223万円 | 670万円 |
2017年 | 1,143万円 | 639万円 |
2018年 | 1,062万円 | 600万円 |
2019年 | 1,055万円 | 600万円 |
2020年 | 989万円 | 560万円 |
2021年 | 941万円 | 580万円 |
2022年 | 1,077万円 | 550万円 |
2023年 | 1,027万円 | 550万円 |
多少上下はしているものの、平均値・中央値は減少傾向にあり、少ない費用で起業する方の割合が増えていると判断できます。
また、本調査は日本政策金融公庫が実際に融資をしている個人企業・法人企業が対象のため「融資を必要としない小規模な事業者」を含めると、さらに平均値・中央値は下がると判断可能です。
実際に日本政策金融公庫の「2023年度起業と起業意識に関する調査」では、起業家の75.5%が自己資金100万円未満で開業したとの結果も出ています。
83.1%の起業家は借入なしで事業を立ち上げているため「起業=大規模な資金が必要」の認識は改める必要があるでしょう。
参考:2023年度新規開業実態調査
参考:2023年度起業と起業意識に関する調査
学生起業で必要な資金は起業アイデアによって異なる
学生起業で必要な資金は起業アイデアによっても異なります。
大まかにいえば、以下の要素によって必要な起業資金は変わります。
・事業所
・従業員
・専門的な設備
例えば「専門的な設備を備えて店舗を構えるビジネス」では、事業所の取得費や従業員の給与、設備の導入費などを要するため、莫大な費用がかかる可能性があります。
一方で「自宅かつパソコン1台で開業できるフリーランスのようなビジネス」であれば、自己資金のみでの開業も十分に可能です。
そのため、上記の平均値や中央値にあまり惑わされず「自分の事業プランで必要な資金はいくらか」を判断することが大切です。
学生起業は資金ゼロでも始めやすい
学生起業は資金ゼロでも始めやすいです。
現在は自宅・パソコン1台で始められるビジネスも多いです。
また社会人の起業であれば、生活のために当面の生活資金の準備が必要ですが、学生であれば仕送りや奨学金があるので「起業で生活費を稼がないといけない」といったケースは少ないでしょう。
さらに大学の校舎やPCルームなどを使える可能性もあるため、限りなく費用を抑えて起業できる環境といえるはずです。
学生起業で必要な資金の内訳
学生起業の起業資金は、大きく以下の3つに分類できます。
・初期資金
・当面の運転資金
・当面の生活費
これらを分けて考えることで、より正確な必要資金の算出が可能となります。
ここでは、それぞれを詳しく解説します。
初期資金
学生起業における初期資金とは「事業を始めるまでに必要な資金」を指します。
具体的には以下のような費用です。
・法人の設立費用
・店舗や事務所の取得費
・店舗や事務所の工事費
・備品費(パソコン/デスク/椅子 など)
・広告宣伝費
・封筒や名刺の準備などで要する雑費 など
通常は、この初期資金が必要資金の大半を占めます。
特に物件の取得を行う場合は、保証金として賃料の10~12ヶ月分程度や、1坪あたり30~50万円程度の内装・外装工事費が発生します。
一方で、上記の費用が発生しない事業プランであれば大幅に起業資金を削減可能です。
「個人事業主として開業」「自宅やレンタルオフィスを活用」「宣伝はSNSを用いて実施」など工夫して初期資金を抑えられれば資金調達の難易度も下がります。
結果として、リスクの低下や資金繰りの良好化に繋がるでしょう。
当面の運転資金
当面の運転資金とは「事業を存続させるために必要な費用を賄う資金」を指します。
事業の内容にもよりますが、起業してすぐに利益が出るわけではないため、赤字の期間でも事業を続けられるように資金を蓄えておきましょう。
当面の運転資金は以下のような用途で使います。
・賃料や水道光熱費
・人件費
・通信費
・商品の仕入代金 など
当面の運転資金が多ければ、赤字の期間が長くても事業を長期間存続できます。
まずは「1ヶ月で発生する固定費等」を算出して3~6ヶ月程度の資金を準備することがおすすめです。
なお、人件費や賃料といった固定費を要さないビジネスであれば、当面のインターネット料金程度で済む場合もあります。
当面の生活費
当面の生活費とは「事業で利益が出ない間の生活に必要な資金」です。
しかし上述した通り、学生であれば仕送りや奨学金で生活できるケースも多いです。
そのため「仕送りや奨学金は事業ではなく生活で使う」と明確に区別できれば、別途当面の生活費を準備する必要はないでしょう。
一方で「アルバイトを辞めて事業を始める」といった場合は、月々のアルバイト収入を基準として、数ヶ月分の生活費を準備することをおすすめします。
学生起業の資金調達の難易度が高い理由
学生起業の資金調達は、通常の起業における資金調達よりも難易度が高いです。
ここでは、学生起業の資金調達が難しい3つの理由を解説します。
これらの課題を解決できれば資金調達の成功率を上げられるため、事前に確認してください。
学生は社会的な信用力が低い
学生は社会人と比較して社会的な信用力が低いです。
金融機関等から融資を受ける場合は、返済が滞らず行われるかの審査が必ず実施されます。
その際に「学生」というだけで返済能力に疑問を持たれます。
また社会人よりもビジネスや信用情報の実績が少ない傾向にあるため、融資の審査の通過は簡単でありません。
加えて、投資家による出資を受ける際も、学生というだけで「利益が出るまでやり切れるのか」「過去の実績がない人に投資しても良いか」と不安を持たれやすいです。
社会的な信用力をすぐに得ることは難しいですが、綿密な事業計画書を作成して、事業への本気度や成功率が高いビジネスである旨を伝える努力が重要となります。
経験が不足している
当然ですが、学生は社会人よりも社会やビジネスに関する経験が不足しています。
それが上述した社会的な信用力の低さに繋がりますが、それだけでなく事業計画の粗さにも繋がる可能性があります。
具体的には、以下のような事業計画になりやすいです。
・売上や利益の見通しが甘い
・ターゲットと商品の内容、マーケティング手法の不一致
・市場調査の精度が低い など
自分では渾身の事業計画と思っても、金融機関や投資家などの専門家の視点からは穴があると判断される場合があります。
その結果、事業での成功は難しいと判断され、資金調達に失敗する原因となります。
まずは販売戦略や数字に関する勉強を行い、第三者の確認を受け、事業計画の粗をなくしていくことをおすすめします。
一定の自己資金が求められる
起業資金の融資を受ける場合、融資の要件として一定の自己資金が求められます。
学生は社会人と比較して収入が少なく、貯蓄できる期間も短いため、多額の自己資金を溜める難易度が高いです。
例えば日本政策金融公庫の創業融資では、創業資金総額の1割以上の自己資金が求められています。
創業資金が1,000万円の場合、100万円の自己資金を要する計算です。
また上記の値はあくまでも申請の要件であり、自己資金1割で必ずしも審査に通るとは限りません。
必要な自己資金割合の目安としては、一般的に3割といわれています。
融資の審査に通るには、アルバイトなどでコツコツと自己資金を溜め、融資の金額もできる限り抑えることが重要です。
学生起業の資金調達方法まとめ
「資金調達=金融機関等からの借入」とイメージする方も多いですが、実際は他にも様々な方法があります。
いずれも学生が利用できる方法であるため、メリット・デメリットを踏まえて自分に合った手段を選びましょう。
ここでは、学生起業の主な資金調達方法を7つ解説します。
自己資金
アルバイトなどで自己資金を溜め、起業資金として使う方法です。
自己資金で起業を行う最大のメリットは、リスクを最小限に抑えられる点です。
万が一事業に失敗しても、損失は自己資金のみであるため、積極的にビジネスにチャレンジできるでしょう。
また、資金の用途が完全に自由である点もポイントです。
他の資金調達方法の場合、資金の使用方法に制限が生じる場合があります。
しかし上述した通り、学生は社会人よりも自己資金を溜める難易度が高いため、資金計画を立ててコツコツと資金を積み立てていくことが重要となります。
家族・親族からの借入・贈与
家族や親族から借入・贈与を受ける方法もあります。
家族や親族からの借入であれば、金融機関のような審査はなく、金額や返済期間も柔軟に相談できます。
また、家族・親族の協力の下で贈与を受けられれば、返済不要の資金を得られ、自由にビジネスに使用可能です。
ただし、家族・親族間の資金の借入だからといって、返済金額や期間、見通しなどが甘いと後々のトラブルに繋がります。
また贈与を受けた資金は贈与税の課税対象となるため、納税資金は確実に残しておくことも大切です。
融資
融資とは、金融機関等から返済を前提とした資金提供を受ける方法です。
融資を受けられる機関は様々ですが、有力な方法は「日本政策金融公庫による創業融資」と「自治体による制度融資」のいずれかです。
日本政策金融公庫の創業融資や、自治体による制度融資であれば、事業計画の実現性や成長性が高ければ学生でも融資を受けられる可能性があります。
銀行融資の場合、会社の規模感や過去の実績なども重要視されるため、学生が融資を受けることは簡単ではありません。
融資の主なデメリットとしては「月々の返済が必要」「利息が生じる」が挙げられます。
毎月の返済が必要だと月々の売上から返済費用を準備する必要があり、資金繰りの圧迫に繋がる可能性があります。
創業融資については以下の記事で詳細に解説しているので、ぜひご覧ください。
出資
ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家、他企業などから出資を受ける方法もあります。
出資とは、事業の成長を期待した投資家から返済不要の資金を受ける資金調達手段です。
返済不要の資金を得られるため、資金繰りが良くなり、万が一事業に失敗した際のリスクも最小限に抑えられます。
また、投資家から事業に対する助言をもらえる可能性がある点も魅力です。
しかし出資を行うような投資家は、出資先の成長によって生じる配当金やキャピタルゲインを求めているため、事業の著しい成長を求められる場合があります。
加えて、投資家の意思が事業運営に大きな影響を及ぼすため、事業運営の自由度が下がる可能性もあります。
投資家の中でも個人投資家を意味する「エンジェル投資家」については、以下の記事で詳細に解説しているためぜひご覧ください。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、インターネットを通じて不特定多数の人から資金調達を行う方法です。
学生や個人でも、多数の方から共感を得られる事業プランであれば多額の資金を調達できる可能性があります。
原則として金銭的な返済は不要であり、支援した方にはお金以外のリターンを行います。
ただし、幅広い方の共感や支援を得られる事業計画でなければ資金調達が難しく、事業アイデアが盗まれる危険性がある点にも注意が必要です。
クラウドファンディングを活用した資金調達については、以下の記事で詳しく解説しています。
補助金・助成金
補助金・助成金とは、新規事業や事業拡大、企業の環境整備といった一定の要件に当てはまる事業者に対して返済不要の資金を提供する制度です。
補助金や助成金は返済不要の資金であり、申請を通じて事業内容のブラッシュアップや労働環境の整備も可能となります。
ただし、原則として後払いのため一度は立替払いが必要です。
また補助金の場合は予算や最大件数などが決まっているため、倍率が高くなる傾向にあります。
起業で活用できる補助金や助成金については、以下の記事で詳細に解説しています。
ビジネスコンテストの賞金
ビジネスコンテストとは、起業を目指す方のビジネスアイデアを競うコンテストです。
ビジネスコンテストでは、優勝や入賞の特典として賞金が出る場合があります。
賞金は返済不要であるため、起業時の初期費用にあてられます。
また、ビジネスコンテストを通じて事業計画をブラッシュアップできる点も魅力です。
ただし、賞金が出るコンテストでは入賞の倍率が高く、必ずしも資金調達に成功できるわけではありません。
それでも自身の事業計画を客観的に見てもらえる機会となるため、自分に合ったコンテストを見つけたら参加してみてはいかがでしょうか。
おすすめのビジネスコンテストについては以下の記事で詳細に解説しています。
全国のコンテストを紹介しているため、ぜひご覧ください。
学生起業の資金調達のポイント・注意点
ここでは、学生起業における資金調達のポイントや注意点を解説します。
自分に合った資金調達方法を選び、不要なトラブルに巻き込まれないためにも必ず確認してください。
入念に事業計画を作成する
資金調達を行う前に、綿密な事業計画を作成しましょう。
事業計画をまとめた事業計画書は、融資の審査や出資の判断で用いる重要な書類です。
事業計画書を使って審査担当者や投資家を説得するため、資金調達の成功を大きく左右する要因となります。
また、事業計画書の財務計画が曖昧だと、必要な資金調達額も曖昧になります。
「資金が足りない」「過剰な調達額」になると資金繰りの面で問題が生じる可能性があります。
事業計画書については、以下の記事で詳細に解説しているため、事業を始める際はぜひ確認してください。
資金調達額はできるだけ抑える
資金調達額はできる限り抑えることをおすすめします。
資金調達額が少なくなれば、それだけ小さなリスクで事業を運営でき、資金調達の成功率も上がるためです。
資金調達額を抑えるには、以下の2つの対策が重要です。
・自己資金割合を高める
・不要な初期資金を使わない
中には最初から大規模な事業に取り組みたい方もいますが、最初は小さな規模で経営を進める「スモールビジネス」がおすすめです。
スモールビジネスについては、以下の記事で詳細に解説しています。
個人間の融資はトラブルの原因となる
個人間の融資はトラブルの原因になりやすいため注意が必要です。
金融機関等の融資のように、綿密な返済計画や利息などを決めず、金銭消費貸借契約書の作成もしていないケースがあります。
契約書を作らず、当事者の認識も曖昧な場合、後のトラブルの原因となります。
また、最近はSNSなどで個人間での貸付を勧誘する行為も問題となっており、犯罪に巻き込まれた例もありました。
そのため個人から資金を借りる場合は、法律を遵守し、お互いの認識を明確にしたやり取りを行いましょう。
各資金調達方法のリスクを理解する
学生が活用できる資金調達方法は様々ですが、それぞれメリット・デメリットがあります。
特にデメリットを知らずに資金調達してしまうと、思いがけない失敗に繋がる恐れがあるため注意が必要です。
例えば出資で資金調達を行う場合、持ち株比率によっては経営権を奪われるリスクが生じます。
他にも、補助金・助成金の場合は後払いとなるため、一度は立替払いが必要です。
そのため、別途資金を用意する必要があります。
このように、いずれの資金調達方法にもリスクやデメリットがあるため、それぞれの特徴を把握したうえで、自分に合った手段を選択しましょう。
まとめ
今回は学生起業の資金調達方法や、必要な資金額などを解説しました。
起業時に必要な資金は、業種やビジネスプランによって大きく異なります。
綿密な事業計画書を作成して、自身の事業プランではどの程度の初期費用を要するかを判断しましょう。
また、学生が活用できる資金調達方法は様々です。
本記事では7種類の資金調達方法を紹介しましたが、それぞれメリット・デメリットがあるため、特徴を適切に理解して自分に合った手段を選択してください。
今回は学生起業の資金面に着目して解説を行いましたが、学生起業の魅力や注意点、おすすめの事業アイデアなどは以下の記事で詳しく解説しています。
これから事業計画を立てる学生はあわせてご覧ください。
この記事の執筆者
片島聖矢
ELPIS Inc, 代表
日本大学芸術学部写真学科在学中の片島聖矢と申します。
高校生時代からマネジメントやデザインなど、様々な分野に興味を持ち、制作活動などを行ってきました。
高校生時代には、広島県主催の広島創生イノベーションスクールに参加し、リーダーとしてマネジメントも経験させていただきました。そこから現在は起業し、デザイン、写真撮影、動画撮影・編集など幅広くクリエイティブな事をさせていただいております。
若さを活かし、現役大学生ならではの視点で情報をお届けしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。