起業を志した際に考えるべき要素が「起業資金」です。
起業で必要な資金は、起業形態や事業の実態によっても大きく異なります。そのため、自身の起業でどのくらいの資金が必要かを適切に判断し、資金の準備や調達方法の検討を行いましょう。
今回は、起業に必要な資金や平均値、資金調達の方法などを解説しているため、ぜひ参考にしてください。
目次
起業資金の平均値・中央値
日本政策金融公庫が実施した「2021年度新規開業実態調査」によれば、2021年の開業費用の平均が「941万円」、中央値が「580万円」となっています。
これらの調査対象は、個人企業が61.3%、法人企業が38.7%(開業時)です。規模の小さい事業主も調査対象であるため、スモールビジネスでの起業を考えている場合でも参考になる値と言えるでしょう。
開業費用の平均値・中央値 |
平均値 |
中央値 |
2016年 |
1,223万円 |
670万円 |
2017年 |
1,143万円 |
639万円 |
2018年 |
1,062万円 |
600万円 |
2019年 |
1,055万円 |
600万円 |
2020年 |
989万円 |
560万円 |
2021年 |
941万円 |
580万円 |
起業資金の平均値・中央値は減少傾向
起業資金の平均値や中央値は年々減少傾向にあります。
2000年の起業資金の平均値が「1,537万円」、中央値が「895万円」と考えると、減少幅は一目瞭然でしょう。
起業資金が減少している要因としては、最低資本金制度の撤廃や、IT技術の発達が挙げられます。
特に現在はIT技術が急激な速度で発達しており、それに伴ってWeb関連の事業形態で起業を行う方が増えている状況です。
Web関連の事業形態の特徴として「特別な設備が不要」「自宅でも事業ができる」などが挙げられます。つまり、少ない初期費用でも十分に起業が可能となるのです。
Web関連の事業はこれからも市場規模が伸びると予想可能です。それに伴って、起業資金の平均値や中央値が今後も減少し続けると予想されます。
500万円未満の起業資金の方が40%以上
「起業資金の平均が941万円と考えると、とても起業は難しい」と考える方もいるでしょう。
しかし、500万円未満の開業費で起業をしている方も、40%以上存在します。
上述したように、Web関係を含む初期費用がかからない事業も数多く存在します。そのため、費用を抑えて事業を立ち上げたい方は、初期費用がかからない業界選びを行うと良いでしょう。
必要資金は業種によっても異なる
上記の値は、全業種を一括りにして算出されていますが、実際は業種によっても必要な起業資金が変動します。
具体的には、大きく以下の要素の有無によって、起業資金が変わると言えるでしょう。
・事業所(オフィス)
・従業員
・専門設備
上記の要素で考えると、自宅で事業ができ、特段の専門設備も不要で、1人で事業ができるフリーランスのような働き方の場合、初期費用がかからないと判断できます。
一方で店舗や従業員を要する飲食店や小売業の場合、不動産の取得費用や給与の関係から起業資金が増えると予想可能です。実際に飲食店の開業費用は1,000万円前後が目安と言われています。
また、事業所や従業員に加えて、専門的な医療機器を要する開業医などは、さらに多くの起業資金が必要となってきます。
そのため、上記の平均値や中央値を鵜呑みにしてしまうのではなく、自身の事業内容ではどのくらいの資金が必要かを考えるべきと言えるでしょう。
自己資金なし・起業資金ゼロで起業はできる?
起業資金の平均値・中央値の話を聞くと「自己資金なし・起業資金ゼロでの起業は難しい?」と考える方もいます。しかし、限りなく資金を抑えての起業は十分に可能です。
もちろん1円も資金を準備せずに起業を行うのは困難です。しかし以下のような起業であれば、限りなく起業資金ゼロに近い状態で事業を立ち上げられます。
・個人事業主としての開業
・自宅をオフィスにできる事業内容
・特段の設備を使用しない事業内容
・従業員を雇わずに1人で運営
このような事業であれば、パソコン1台準備できる資金だけで十分に起業が可能です。
資金調達が前提の自己資金なしは避けるべき
一方で、自己資金なしにも関わらず、資金調達によって大規模な起業を行うのはおすすめしません。
資金調達を行うには一定の自己資金を要するため、自己資金ゼロでの資金調達は現実的ではありません。また、自己資金が少ないと、それだけ資金調達の額が大きくなり、支払利息や返済が事業の負担となります。
その結果、資金繰りが悪化し、事業が成功しない要因となるでしょう。
全額を自己資金で補うのが難しい場合であっても、自己資金の比率を少しでも高める点が重要です。自己資金比率が高まればそれだけ月々の返済額が減り、万が一失敗した際のリスクも最小に抑えられます。
法人の設立で必要な資金の内訳
法人を設立する場合は、公的な手続きで設立費用を要します。
設立費用は法人の形態によっても異なるため、株式会社と合同会社に分けて解説します。
株式会社の場合
株式会社の設立で要する費用は「約222,000円」です。
【株式会社の設立で必要な費用の内訳】
定款の原本に貼る収入印紙代:40,000円
定款の認証手数用:30,000円~50,000円
法人登記時の登録免許税:150,000円(資本金が2,143万円未満の場合)
謄本の交付手数料:約2,000円
なお、定款の認証手数料は、資本金の額が100万円未満であれば30,000円、100万円以上300万円未満であれば40,000円、300万円以上であれば50,000円です。
また、資本金が2,143万円以上の場合は「資本金の金額×0.7%」が登録免許税の額になります。
他にも、定款の原本に貼る収入印紙は、電子定款であれば不要です。ただし、電子定款の作成には専門の機器やソフトが必要となる点に留意しましょう。
合同会社の場合
一方で、合同会社の設立で必要な費用は「約100,000円」です。
【合同会社の設立で必要な費用の内訳】
定款に貼る収入印紙代:40,000円
法人登記の登録免許税:60,000円(資本金が858万円未満の場合)
なお資本金が858万円以上の場合は「資本金の金額×0.7%」が登録免許税の額となります。
資本金はいくら準備すべきか
法人を立ち上げる際は資本金の準備が必要です。資本金は法人登記の前に払い込む流れとなります。
ただし、現在は最低資本金制度が撤廃されているため、資本金が1円であっても起業が可能です。
資本金の平均は約300万円程度と言われています。しかし資本金は多ければ良いという訳ではありません。メリット・デメリットがあるため、総合的に判断して資本金を決定しましょう。
【資本金の額が大きいメリット】
対外的な信用力に繋がる
事業拡大などがしやすい
事業内容によっては一定以上の資本金が必要な場合もある
【資本金の額が大きいデメリット】
法人登記での登録免許税や定款認証の手数料が高額になる
資本金が1,000万円以上だと会社設立後すぐに消費税が課される
資本金が1億円超以上だと外形標準課税の負担が生じる
資本金が5億円超だと会計監査人の設置や連結決算書類の作成が必要になる
個人事業の設立には費用がかからない
法人とは異なり、個人事業の設立には一切の公的費用がかかりません。
個人事業の設立には、管轄の税務署に対して開業届の提出を行うのみです。
そのため、起業資金を少しでも抑えたい方は個人事業主としての開業がおすすめです。
事業の開業で必要な資金の内訳
上記した費用で起業自体は可能ですが、事業を立ち上げるには事業の環境を整えるための費用も要します。
ここでは事業の開業で必要な費用の内訳をご紹介します。
初期費用
起業時に生じる可能性がある初期費用には以下のようなものがあります。
・物件取得費:賃料の10ヵ月~12ヵ月程度分
・内装および外装工事費:1坪あたり30万円~50万円程度
・備品費:30万円~100万円程度(事業規模や拘り具合にもよる)
・広告宣伝費:0円~200万円程度(場合によってはさらに要する)
・雑費(封筒や名刺の印刷費用など)
ただし、事業の実態によっては不要な費用もあります。例えばフリーランスのような形で起業を行う場合、机や椅子、パソコンなどの備品と、名刺などの雑費程度の負担となります。
また、事業規模が大きくなる場合や、最初から大掛かりな広告を打つ場合などは、これ以上の費用を要する場合もあるでしょう。
当面の運転資金
事業を立ち上げても、すぐに利益が出るわけではありません。
起業後に黒字化するまでの期間は事業の内容によっても異なりますが、数ヵ月から半年程度利益が出ないケースも多々あります。
そのため、当面の運転資金も準備する必要があります。
【当面の運転資金の内訳】
・賃料やライフラインなどの固定費
・商品の仕入代金
・人件費
・諸経費
当面の運転資金を多めに準備できれば、それだけ赤字に耐えられる期間が長いことを示します。資金に余裕があれば、焦らずに経営を続けられ、着実に黒字に向けて取り組めるでしょう。
当面の生活費
当面の運転資金と同様に、当面の生活費も起業資金の計算に入れておきましょう。
具体的に何ヶ月分用意すべきかは事業の実態にもよるため、事業計画書の作成の段階で、何ヵ月目で利益が生じる見込みかを慎重に判断しましょう。
当面の生活費は多いほど長期間赤字に耐えられ、精神的な不安も少なくなるため、余裕を持った額を準備するのがおすすめです。
起業資金の主な調達方法
起業の資金は全額自己資金が理想ですが、実際は自己資金のみで開業できないケースも多いです。
その場合は何かしらの手段で資金調達を行う必要があります。
資金調達の主な手段は「融資」「補助金・助成金」「出資」などです。以下ではそれぞれの特徴を解説します。
融資
融資とは金融機関などから返済を条件に資金を借りる資金調達手段です。
銀行や信用金庫の他にも、日本政策金融公庫の創業融資などがあります。融資を受けるには事業計画書や自己資金などの要素からなる審査を通過する必要があります。
入金が比較的早く、借入先の数も非常に多い点がメリットです。
一方で、元本に加えて利息の返済も必要な点がデメリットとなります。また、必ず審査に通るわけではない点にも注意が必要です。
補助金・助成金
補助金・助成金とは、定められた一定の使用目的のために、国や地方公共団体から資金の交付を受ける制度です。
具体的には以下のような補助金・助成金があります。
・創業助成事業
・ものづくり補助金
・小規模事業者持続化補助金
補助金・助成金の大きなメリットは、返済が不要な点です。月々の返済がいらないため、資金繰りが良くなり、起業の成功の要因となるでしょう。
一方で、受給要件が定められており倍率も高い傾向にあります。また、基本的に後払いであるため、起業時の資金の計算に入れていると、入金が間に合わない可能性がある点に注意しましょう。
参考:創業助成事業
参考:ものづくり補助金
参考:小規模事業者持続化補助金
出資
出資とは、事業の成長を期待した投資家などから資金の提供を受けることです。出資には以下のような種類があります。
・個人投資家による出資
・ベンチャーキャピタル
・クラウドファンディング
出資の場合、返済の義務はなく利息もかかりません。また、投資家からの助言をもらえるケースがある点もメリットでしょう。
一方で、利益が出れば配当金を分配する必要があります。また、経営の自由度が低下するリスクが生じる点にも注意が必要です。
クラウドファンディングでの資金調達
クラウドファンディングとは、インターネットを通じて多くの方に少しずつ出資を受けることです。
原則として(金融型以外)金銭的な返済は不要です。購入型であればサービスの提供、寄付型であれば対価なしで利用ができます。
事業に賛同されれば誰でも資金調達ができる可能性があり、マーケティング効果も同時に生じます。
一方でアイデアを公表するリスクが生じ、成功も確約されていない点がデメリットと言えるでしょう。
クラウドファンディングについては、以下の記事で詳細に解説しています。資金調達の1つの手段として興味がある方は参考にしてください。
起業資金で失敗しないためには綿密な事業計画の策定が重要
起業資金で失敗しないためには、綿密な事業計画の策定が重要です。
事業計画によって、開業費や当面の運転資金などが明確になっていないと、いくら資金調達をすべきかが曖昧になります。
結果的に資金調達の審査で落ちたり、余分な資金調達の結果、負担する利息が増える要因にもなるため注意が必要です。
起業準備の段階で作成すべき「事業計画書」については、以下の記事で詳細に解説しています。ぜひ参考にして、正確な必要資金を算出してください。
バーチャルオフィス・レンタルオフィスによる起業資金の削減
起業資金の大部分を占める要素が事業所の取得費用です。
賃料の約10ヶ月分程度の資金が必要となるため、負担は非常に大きいです。また、物件の賃料は月々の固定費ともなるため、極力抑えたい要素と言えるでしょう。
そこで「法人登記のためにオフィスの契約を行う」「小さな執務スペースがあれば良い」といった方におすすめのサービスが「バーチャルオフィス」や「レンタルオフィス」です。
バーチャルオフィスとは「架空の(バーチャル)」「事務所(オフィス)」のことで、事業用の住所をレンタルするサービスです。通常の賃貸よりも初期費用と固定費を抑えつつ、事業用の住所の取得ができます。
一方でレンタルオフィスとは、自分だけが使用できる個室をレンタルできるサービスです。こちらも初期費用・固定費を抑えて利用ができるため、少人数での起業におすすめです。
また、バーチャルオフィスやレンタルオフィスは「自宅をオフィスにして事業を行う」といった方にもおすすめです。自宅をオフィスにする方がこれらのサービスを活用すれば、以下のようなメリットが生まれます。
・一等地の住所を使用できるため、信頼性が向上する
・プライバシーの問題がなくなる
・自宅と事業所を明確に区分でき、業務の効率アップに繋がる
バーチャルオフィスやレンタルオフィスの業者によっては、様々な事業サポートを行っているケースもあります。各種サービスを最大限に活用できれば、起業の成功にも近付くため、ぜひ検討してください。
まとめ
今回は起業に必要な資金について解説しました。
起業資金の平均値は、2021年で「941万円」です。しかし、実際は起業の形態や事業の内容によっても異なります。
自身の起業で必要な資金や適切な資金調達の方法を選べれば、事業が成功する要因となります。
そのためにも、綿密な事業計画を作成して、正確な起業資金を算出しましょう。
この記事の執筆者
久田敦史
株式会社ナレッジソサエティ 代表取締役
バーチャルオフィス・シェアオフィスを通して1人でも多くの方が起業・独立という夢を実現し、成功させるためのさまざまな支援をしていきたいと考えています。企業を経営していくことはつらい面もありますが、その先にある充実感は自分自身が経営をしていて実感します。その充実感を1人でも多くの方に味わっていただきたいと考えています。
2013年にジョインしたナレッジソサエティでは3年で通期の黒字化を達成。社内制度では週休4日制の正社員制度を導入するなどの常識にとらわれない経営を目指しています。一児のパパ。趣味は100キロウォーキングと下町の酒場めぐり。
【学歴】
筑波大学中退
ゴールデンゲート大学大学院卒業(Master of Accountancy)
【メディア掲載・セミナー登壇事例】
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