はじめに
ICT技術の活用は、これまでのビジネスの枠組みでは、不可能であった新たな事業機会を創出することが可能となるだけではなく、その目的が明確であればあるほど大きな成果を生み出すことを可能とした。
実際、新たなビジネスを立ちあげてきた企業の多くは、ICTを経営の基盤において、その活用を前提とした事業を想定し、大きな成果を出してきた。例えば、営業機能を持たなかった中小企業がICTを活用することで、「新しい市場」を発見したり、「新しい生産手段」を導入したりすることを可能としたのである。
インターネットを中心としたICT導入以前は「時間」、「予算」、「空間」等、企業活動はさまざまな制約にとらわれていた。その制約を一挙に解消したのがICTである。
つまり、ICTの活用が,これまでになかった「革新(イノベーション)」を生み出したのである。
イノベーションという言葉は、経済学者シュンペータによって、「新結合」と定義されたもので、その著書「経済発展の理論」の中でも、「経済発展は、人口増加や気候変動などの外的な要因よりも、イノベーションのような内的な要因が主要な役割を果たす」と述べられているように、それまでのモノ・仕組みなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こす「新しい価値を生み出すプロセス」を意味している。
しかしながら、まだ多くの企業に取って、ICT活用によって新たな事業機会を見出すことは容易な問題ではない。本レポートでは、情報通信のインフラが世界中に張り巡らされた今だからこそ可能となった、ICT活用に向けた企業家が持つべき視点を掘り下げていく。
プロローグ「ビジネスモデル・イノベーション」
マーケティングは「売るための仕組みづくり」であり、同時に「儲けの仕組みづくり」でもある。そして、「儲けの仕組み」を具現化したものが、ビジネスモデルと言うことになる。
ビジネスモデルには様々な定義があるが、「顧客にある価値を提供するときの手段と儲けの仕組み」[1] とここでは定義することとする。
つまり、「顧客に提供する価値」を明確にして、「そこから収益を上げていくための仕組み」を考えて、そのビジネスを「持続させる方法」を考える仕組みづくりが、これからのビジネスの在り方を方向付けるからである。
「これまでの常識が通用しなくなる。」そんな言葉は使い古された言葉のようにも思えるが、例えば、新たなビジネスモデルの登場によって、これまでとはまるで違う競争環境ができ、従来の企業とは儲けの構造がまったく異なる競争相手との戦いが既に始まっているのである。「収益―費用=利益」や「時間単価×労働時間」の公式で計れない新たな経営について考えてみたい。
広島国際学院大学 情報文化学部 現代社会学科 准教授 竹元 雅彦
[1]内田和成「異業種競争戦略」日経新聞社、2009年、P76