「補完」と「代替」
これまで各企業は、競争環境下にあって、「勝つか負けるか」、「100か0か」という視点で競争環境を捉えてきた。例えばインターネットの進展によって近い将来、既存の店舗が無くなってしまうとまでいわれたが、実際には棲み分けが行われていて、結果として消費者にとって消費の選択肢の幅が増えたと見る方が現実的であろう。
実際、リアルのコンビニ市場の規模9.4兆円スーパーマーケット市場12.7兆円に対して、既にEコマース市場が15.9兆円規模といわれる現状からは、どこかがどこかを食いつぶしたという劇的な競争構造は見えない。むしろ、ネットが新たな市場を創出したといえるのではないだろうか。
そのキーワードとなるのが「補完」と「代替」である。つまり、インターネットという「バーチャル」の世界と実店舗の「リアル」の関係を、「補完」ととらえるか「代替」ととらえるかということを考える視点が必要なのである。
この「補完」と「代替」は、もともとは、“補完材と代替材”という経済用語である。
コーヒーを例にとれば、「補完」はミルクのような補う存在で、「代替」は紅茶のように取って代わる存在のものである。お互いの関係が、補い合うものか相容れないものかは場面によって異なるが、その見極めがビジネスを展開する上で重要となる。
ICTの進展によって、「繋がる」ことが物理的にもコスト的にも容易くなり、例えば足元商圏だけでビジネスが成立しなくても、インターネットを活用することで「商圏」を広げるあるいは、「品揃え」を広げることができるようになった。
つまり、デジタル技術と代替の機能はデジタル技術に委ねて、「何」を補完すれば既存のビジネスが成立するのか、また更に成長拡大が可能になるのかが、ICT活用の鍵となるのである。
そして、「補完」を考えるうえで重要となるのが、“リアル(本業)”の見直しである。既存のビジネスを再度見直すことにより、バーチャルとどう「補完」し合うかの糸口が得られ、それによってリアルのビジネスが再度生まれ変わるということになる。
東京大学大学院教授 伊藤元重氏が指摘するように「多くのビジネスは様々な機能の束からできている。この機能のいくつかが情報ネットワークと代替的な関係にあるため、デジタル化が進んでいけば束のその部分から崩れ、ビジネス全体が壊されていくことになりかねない。」しかし、その崩れおちたところから新たなビジネスが誕生していることも確かなのである。
参考文献:伊藤元重「キーワードで読み解く経済」エヌティティ出版、2008年
広島国際学院大学 情報文化学部 現代社会学科 准教授 竹元 雅彦