中・大規模な起業では、資金調達が必要となるケースもあります。
しかし一言で資金調達と言っても手段は様々です。資金調達の方法は、大きく分けると以下の3種類があります。
・融資
・出資
・補助金および助成金
それぞれ特徴やメリット・デメリットが異なるため、事業の実態に合わせた選択が重要となります。
そこで今回は、起業で使える資金調達方法の特徴やメリット・デメリットなど解説しています。資金調達で失敗しないためのポイントも紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
目次
起業資金の目安
日本政策金融公庫の「2021年度新規開業実態調査」によれば、起業費用の平均値は「941万円」、中央値は「580万円」です。また、500万円未満の起業資金で事業を立ち上げた方は40%以上存在します。
起業資金の平均値は中央値は年々減少傾向にあり、スモールビジネスやIT起業で事業を立ち上げるケースも増えています。
しかし業種によっては、事業所や設備の確保、従業員の採用などで一定の初期資金が必要な場合も多いです。一例を挙げると、飲食店を開業する場合の費用は1,000万円前後が目安と言われています。
そのため、自身の事業内容を分析して必要な起業資金を判断し、最もメリットが大きい資金調達手段を選択しましょう。
起業資金については以下の記事で詳細に解説しているため、興味のある方はぜひご覧ください。
資金調達方法1.融資
融資とは、返済を前提に金融機関等から資金を借り入れる資金調達方法です。
融資を受けるには一定の審査に通る必要があり、元本に加えて利息金も返済する必要があります。
①銀行等からの融資
多くの方がイメージするのが、銀行等からからの融資です。
銀行や信用金庫などが候補ですが、大手銀行は起業資金の融資を受けることが難しい場合があります。
一方で信用金庫の場合は、銀行よりも審査のハードルが低い傾向にあります。信用金庫は地域の発展や相互扶助が目的のため、地域内で起業する方への融資にも積極的な場合が多いためです。
②日本政策金融公庫からの融資
日本政策金融公庫からの融資も、候補となる資金調達方法です。日本政策金融公庫では様々な融資制度を提供しています。
【日本政策金融公庫の融資制度の例】
新創業融資制度
新規開業資金
マル経融資(小規模事業者経営改善資金)
生活衛生新企業育成資金
挑戦支援資本強化特別貸付
それぞれの制度で融資を受けられる条件が定められています。基本的に金利は銀行等よりも低くいため、返済計画も立てやすいです。
また、無担保かつ無保証で融資を受けられる場合もあります。審査のスピードが早めな点も魅力です。
参考:新創業融資制度
参考:新規開業資金
参考:マル経融資(小規模事業者経営改善資金)
参考:生活衛生新企業育成資金
参考:挑戦支援資本強化特別貸付
③制度融資
制度融資とは金融機関と地方自治体、信用保証協会が連携して融資を行う制度です。
制度融資は地方自治体が独自に実施しているため、起業する地域によって受けられる制度が異なります。
例えば東京都の場合、令和4年度に目的別で以下を含む40種類以上の制度融資が実施されました。
【令和4年度 東京の制度融資の例】
創業融資
設備融資
販路開拓融資
チャレンジ融資
また、各区や市町村でも独自に行っている制度融資が存在します。起業を行う地域で実施されている制度融資の内容を確認しましょう。
制度融資は銀行等の融資と比較して審査のハードルや金利が低めです。また、経営支援も提供される場合があります。
一方で自治体ごとに制度が異なるため、自分の目的に適した融資制度があるとは限りません。また、手続きも比較的長期に渡るため、すぐに資金を調達したい方には向いていない可能性もあります。
④ビジネスローン
ビジネスローンとは、事業資金専用のローンを指します。実施している機関は銀行や消費者金融業者、クレジットカード会社などです。
ビジネスローンのメリットは比較的審査のハードルが低く、融資が実行されるまでのスピードも速い点です。また、担保や保証人が不要なケースも多い点もメリットとなります。
一方で、上記した融資制度よりも金利は高めです。日本政策金融公庫での融資は年利0.7%程度~3%程度のケースが多いですが、ビジネスローンの場合は10%を超える場合も多々あります。
また、借入可能額も低く、今後の銀行等の融資に影響が出る可能性もあります。
メリットもデメリットも大きい制度であるため、事業の実態に沿った選択を行うことが重要です。
融資で資金調達を行うメリット
起業時の資金調達で融資を選択するメリットは大きく以下の2点です。
経営に介入されない
融資の場合、元本の返済と利息の支払いを遅れなく続ければ、経営について融資実行機関に介入されることはありません。
そのため、自由度の保ったまま企業経営を行えます。
自社の要望に合わせた必要資金を調達できる
融資の場合は、多額・少額に関わらず臨機応変に必要な資金を調達できます。
以下で解説する出資や補助金等の場合は、自社に必要な資金を過不足なく受けられるわけではないため、融資のメリットと言えます。
融資で資金調達を行うデメリット
一方で融資での資金調達には以下のようなデメリットがあります。
利息を含めて返済する必要がある
融資の場合、利息を含めて決まった日に返済を行う必要があります。
長期での借入となる場合は、利息が負担になるだけでなく、資金繰りの圧迫に繋がる恐れがある点に注意しましょう。
基本的に経営者保証が必要
融資での資金調達では、基本的に経営者保証が必要です。
株式会社や合同会社は原則として有限責任であるため、事業に失敗した際も代表者個人に影響は及ぼしません。しかし、経営者が保証人になると、実質的に無限責任となるため注意が必要です。
また、将来事業継承を行う場合、経営者保証がネックになって継承が進まないなどの事態も起こり得ます。
資金調達方法2.出資
出資とは事業の成長を期待した個人や法人から、資金の提供を受けることを指します。
融資とは異なり返済が不要である点が大きな特徴です。その代わり、出資者に対しては株式の提供を行うのが基本となります。
①従業員持株会
従業員持株会とは、従業員が会社の資本金を出資しあう資金調達方法です。規約を作成し、従業員の中から会員を募って、給与や賞与を原資として自社株を購入する仕組みです。
株式は拠出金に応じて会員に分配され、退職時は株を現金で買い取る流れになります。
東京証券取引所による「2020年度従業員持株会状況調査結果」によれば、東京証券取引所に上場している3,752社のうち、少なくとも3,239社が持株会制度を用いているとの結果があります。
従業員持株会は、従業員が株を保有するため流動性が低く、安定して資金を調達可能です。
②ベンチャーキャピタル(VC)
ベンチャーキャピタル(VC)とは、成功が見込める事業に対して投資を行う投資会社です。ベンチャーキャピタルは、投資した企業の上場によってキャピタルゲインを得る目的があります。
この特性から、ベンチャーキャピタルでの資金調達は、高い成長力があると判断された事業のみが取れる選択肢です。
③個人投資家(エンジェル投資家)
個人投資家(エンジェル投資家)からの出資も有力な資金調達方法です。上記のベンチャーキャピタルとは異なり、投資家は個人の資金を投資します。
ベンチャーキャピタルと同様に、将来的な成長が見込める事業でなければ、出資を受けることは難しいと言えるでしょう。
出資で資金調達を行うメリット
出資による資金調達には以下のメリットが存在します。
返済が不要
出資で資金調達を行った場合、融資とは異なり、出資者への返済は不要です。
月々の返済がないため、資金繰りに余裕が生まれ、事業の安定化や多角化のしやすさに繋がります。
経営に関する助言をもらえる
出資での資金調達の場合、出資者から経営に関する助言をもらえるケースも多いです。
出資者は事業の成功によるキャピタルゲインを目的としているため、事業の成長のために一緒になって動いてくれる点が大きな魅力と言えるでしょう。
出資で資金調達を行うデメリット
一方で、出資による資金調達にはデメリットも存在します。
経営に制限が生まれる
出資によって資金調達を行うと、株主の利益が最優先になります。そのため、経営者の希望を最優先にした事業運営は難しくなります。
株主の意向を無視する、あるいは株主の利益に反する行為があった場合は、役員の責任追及や株式の売却に繋がる可能性があります。
必ずしも出資が受けられるとは限らない
出資での資金調達を希望していても、必ず出資を受けられるとは限りません。
投資する側は将来的なキャピタルゲインを目的としているケースが多いため、事業の成長が見込めなければ出資を受けることはできないでしょう。
資金調達方法3.補助金・助成金
補助金・助成金とは一定の目的に沿った事業を行う場合に提供される資金のことです。
国や地方公共団体が実施しているケースが多く、原則として返済は不要です。
①国が行っている補助金・助成金制度
国が行っている補助金・助成金には以下のようなものがあります。
【国が行っている補助金・助成金の例】
事業再構築補助金
ものづくり補助金
IT導入補助金
小規模事業者持続化補助金
働き方改革推進支援助成金
人材確保等支援助成金
それぞれの補助金で目的や条件が大きく異なるため、活用できる制度がないかを確認しましょう。
参考:事業再構築補助金
参考:ものづくり補助金総合サイト
参考:IT導入補助金
参考:小規模事業者持続化補助金
参考:働き方改革推進支援助成金
参考:人材確保等支援助成金
②各自治体が行っている補助金・助成金制度
補助金・助成金の中には各都道府県や市区町村が独自で行っているものを存在します。例えば東京都や各特別区では以下のような制度が存在します。
【東京都や特別区で実施されている補助金・助成金制度】
創業助成金(東京都中小企業振興公社)
TOKYO戦略的イノベーション促進事業(東京都中小企業振興公社)
地域循環型!チャレンジ・チェンジ小口応援補助金(千代田区)
研究機関の活用支援助成金(台東区)
荒川区SDGs活用経営推進事業補助金(荒川区)
他にも目的に応じた様々な補助金・助成金制度が存在するため、開業地域の制度を確認しましょう。
参考:創業助成金(東京都中小企業振興公社)
参考:TOKYO戦略的イノベーション促進事業(東京都中小企業振興公社)
参考:地域循環型!チャレンジ・チェンジ小口応援補助金
参考:研究機関の活用支援助成金
参考:荒川区SDGs活用経営推進事業補助金
補助金と助成金の違い
助成金の主な目的は、労働者の職の安定です。事業存続に影響がある場合は、国の施策に対応させるために一定の資金を援助します。
一方で補助金は事業のサポートを通じた、地方創生や特定産業の育成といった目的があります。
そして、助成金は対象者や目的といった基準を満たしていれば、ほぼ確実に資金を受給できる制度です。随時募集の場合が多いため、要件に当てはまれば比較的受給しやすいです。
一方で補助金は、定員や予算が定められています。そのため、希望した方全員が受けられるわけではなく、倍率が高いケースも多々存在します。また、募集期間も一定期間であるため、いつでも活用できるわけでない点に注意しましょう。
補助金・助成金で資金調達を行うメリット
以下では補助金・助成金で資金調達を行うメリットを2点ご紹介します。
返済不要で経営への介入もない
補助金・助成金で資金調達をした場合、原則として返済が不要です。また、経営への介入もないため、経営の自由度が下がることもありません。
ただし、一部の補助金・助成金は、利益の発生によって返済が必要なものがある点に留意しましょう。
労働環境が整備できる
助成金には、人材育成や働き方改革、ITの導入といった職場の環境改善が目的のものも多いです。そのため、助成金を活用すれば、職場環境の整備で要する資金を削減できます。
また、助成金の申請には賃金台帳や出勤簿の提出が必要な場合も多いため、適正かつ健全な企業運営に繋がるでしょう。
補助金・助成金で資金調達を行うデメリット
一方で、補助金・助成金にはデメリットも存在します。
必ず資金提供を受けられるわけではない
補助金・助成金では必ず資金提供を受けられるわけではありません。
補助金は予め定員や予算が決まっているため、高倍率になるケースも存在します。
また、助成金の場合も一定の条件が定められているため、新規事業を立ち上げる方全員が受けられる制度ではない点に留意しましょう。
資金調達までに時間がかかる
補助金・助成金の支給は原則後払いである点に注意が必要です。
設備の導入や起業の初期費用に充てる場合であっても、一度は建て替え払いが必要となります。そのため起業時の資金としては不適な可能性もあるでしょう。
その他の資金調達方法
上記の3種類の資金調達方法以外にも、いくつか候補に入れたい手段があります。
ここでは、その他の資金調達方法を4点解説します。
①自己資金・家族や親戚からの借入
起業資金を自己資金とするメリットは、リスクを抑えて起業ができる点です。返済が不要な上に、事業内容に制限もかかりません。
また、家族や親戚からの借入であれば、融通が効きやすいです。利息や金額といった諸条件の相談がしやすいため、1つの選択肢となります。
②クラウドファンディング
クラウドファンディングも有効な資金調達手段の1つです。
クラウドファンディングとは、インターネットを通じて、多数の方から少しずつ資金を集める方法です。集まった資金は返済の必要がなく、金銭的でないリターンを出資者に行う形で資金を調達します。
クラウドファンディングでは誰でもリスクが少なく資金調達ができる可能性があります。また、プロジェクトを公開することで、マーケティング効果を生むケースもあります。
一方で資金調達の成功が確約されているわけでなく、アイデアを盗まれるリスクがある点に注意が必要です。
クラウドファンディングについては以下の記事で詳細に解説しています。興味ある方はぜひご覧ください。
③ビジネスコンテストの賞金
ビジネスコンテストへの出場も資金調達の手段となります。
ビジネスコンテストとは、各人が考えるビジネスプランを競うコンテストです。地方公共団体や企業などが開催しています。
そして、ビジネスコンテストで入賞できれば、賞金や資金調達の支援を受けられるケースが多いです。他にも、事業アイデアのブラッシュアップや人脈形成にも繋がるため、検討してはいかがでしょうか。
ビジネスコンテストについては、以下の記事で詳細に解説しています。おすすめのビジネスコンテスをもご紹介しているため、ぜひご覧ください。
起業時の資金調達で失敗しないためのポイント
資金調達は必ず成功できるわけでなく、時には初期資金がリスクになる可能性も存在します。そのため、資金調達を検討する際は、以下のポイントを押さえて手続きを進めましょう。
最後に、起業時の資金調達で失敗しないためのポイントを4点解説します。
必要な初期資金を明確にする
資金調達の際は必要な初期資金を明確にしましょう。
資金調達額が少なすぎてはいけませんが、資金調達額が多すぎる場合も注意が必要です。
融資の場合はそれだけ多くの利息を支払うことになり、出資の場合も多くの株式を発行することになります。
初期資金を抑えた起業がおすすめ
そして、初期資金はできるだけ抑えた起業がおすすめです。
初期資金を抑えればそれだけ返済や利息の支払いが少なくなり、資金繰りが良くなります。また、万が一起業に失敗した際のリスクも減少するため、2度目の起業や再就職がしやすくなります。
現在は初期費用を抑えたスモールビジネスが人気ですが、そうでなくても固定費の削減や、内装工事、備品といった初期費用の削減に努めましょう。
綿密な事業計画を作成する
資金調達を行う際は綿密な事業計画書を作成しましょう。
想定の売上・費用を正確に算出できれば、それだけ必要な初期資金は明確になります。
また、融資や出資を受ける際に事業計画書を基に事業内容の説明を行うため、資金調達の成否にも直接影響します。
綿密な事業計画書を作れれば、事業のブラッシュアップや正確なシミュレーションもできるため、起業準備として取り入れましょう。
事業計画書については以下の記事で詳細に解説しています。事業計画書の項目や目的が知りたい方はぜひご覧ください。
事業内容にマッチした資金調達手段を選択する
事業内容にマッチした資金調達手段を選択することも重要です。
例えば、競合他社にはない自社独自の技術やノウハウがある場合は、出資が向いている可能性があります。投資家は事業の安定性よりも、将来性や攻めの姿勢が求められる傾向があるためです。
一方で、将来的に安定・安全に事業を進められる内容の場合、融資の審査が通りやすいです。金融機関は融資した額を利息と一緒に返せる返済能力を重視しているためです。
事業内容にマッチした資金調達手段を選べれば、資金調達の成功確率は向上し、事業も有利に進められるでしょう。
自己資金割合を高める│自己資金なしは危険
起業時は自己資金なしかつ全額資金調達で賄う計画は危険です。
融資の場合は、一定割合の自己資金額が必要になるケースが多いです。また、自己資金が少ないとそれだけ起業のリスクは向上します。
反対に、自己資金割合が高ければ、融資元から返済能力や信頼力が高いと判断され、手続きは円滑に進むでしょう。また、返済額が少なくなるため、資金繰りも良くなります。
そのため、初期資金が必要な起業であっても、可能な限り自己資金割合を高めるように努めましょう。
まとめ
今回は起業時の資金調達について解説しました。
一言で資金調達と言っても方法は様々です。それぞれメリット・デメリットもあるため、自身の事業内容に合わせて手段を選択しましょう。
また、資金調達を行う場合も、自己資金割合は高めるべきです。自己資金割合が高ければそれだけ信頼性は向上し、起業のリスクは低下します。
資金調達を行う計画の場合、まずは事業計画書を作成して、必要な初期資金を算出してはどうでしょうか。
参考
この記事の執筆者
久田敦史
株式会社ナレッジソサエティ 代表取締役
バーチャルオフィス・シェアオフィスを通して1人でも多くの方が起業・独立という夢を実現し、成功させるためのさまざまな支援をしていきたいと考えています。企業を経営していくことはつらい面もありますが、その先にある充実感は自分自身が経営をしていて実感します。その充実感を1人でも多くの方に味わっていただきたいと考えています。
2013年にジョインしたナレッジソサエティでは3年で通期の黒字化を達成。社内制度では週休4日制の正社員制度を導入するなどの常識にとらわれない経営を目指しています。一児のパパ。趣味は100キロウォーキングと下町の酒場めぐり。
【学歴】
筑波大学中退
ゴールデンゲート大学大学院卒業(Master of Accountancy)
【メディア掲載・セミナー登壇事例】
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