法人や個人事業を立ち上げ、事業が継続している割合を生存率と呼びますが、10年後には約4分の1になるといわれています。ほとんどの事業が10年を経たずして継続できなくなるわけですので、起業にあたっては事前準備が重要だと考えることもできるでしょう。
それでは、起業に向けてはどのような準備ができるのでしょうか?
起業後すぐに本業に専念できるようにするため、開業届や法人登記に関する知識を身につけておくことや、会計や経理を学んでおくということが考えられるでしょう。資金ショートを防ぐため、自己資金を確保しておくことも事前準備のうちに入るでしょう。
さて、今回は「起業に向けてビジネスモデルを学ぶ①~戦略モデル編~」と題し、ビジネスモデルに関する知識を提供する記事を執筆しました。
もちろん、ビジネスモデルを知らずに、ビジネスモデルを学ばずに起業することは可能です。しかし、現在成功している事業の戦略やオペレーション、収益などの構造を知っておくことは、あなたがビジネスを始めるうえで役立つに違いないでしょう。本記事はビジネスモデルの中でも戦略モデルに絞ったうえで解説していきますので、最後までお付き合いいただければと思います。
目次
ビジネスモデルは事業の骨組みの設計である
ビジネスモデルは利益を生み出す製品やサービスに関する事業戦略と収益構造を示す用語であり、1990年代後半にアメリカで広く普及しました。日本でも2000年10月にビジネスモデル学会が発足し、徐々に注目を集めています。
ここでは、本記事で使用するビジネスモデルの定義を明確にしていきたいと思います。
ビジネスモデルとは
日本におけるビジネスモデルの研究では、根来龍之氏、國領二郎氏、張輝氏らの研究が有名ですが、本記事では根来氏が定義したビジネスモデルを使用していきたいと思います。
根来氏はビジネスモデルを、
「企業がどのような事業活動をしているか、あるいはどのような事業活動を構想するかといった事業構造の設計モデル」と定義し、
戦略・オペレーション・収益を3つの重要なサブモデルとして位置づけています。
ビジネスモデルはおおまかに3つの意味で分類できる
根来氏は、ビジネスモデルを次の3つの意味に分類しています。
戦略モデル | どのような価値をどうやって顧客に提供するかという方法 |
オペレーションモデル | 戦略モデルを実現するための業務プロセスの構造 |
収益モデル | 利益を確保する方法 |
戦略モデル
戦略モデルに関しては、「クラウドソーシング」が一例として挙げられます。
クラウドソーシングは、サービスを調達したい企業とその仕事を請け負いたい個人を仲介するサービスです。クラウドワークスやランサーズなどのサービスをイメージしてもらえればと思います。
こうしたサービスが登場する以前は、業務の一部を外注(アウトソーシング)したい企業が個人の委託先を探すことは多大なコストが発生しており、またフリーランスとしてこれまでに関係性のない企業から仕事を受注するということも高いハードルとなっていました。
インターネットの普及とともに両者を仲介するというサービスが登場すると、企業から個人への業務委託は急激に増加したと言われています。このように、企業には「業務の一部を外注できる人材」、個人には「自分のスキルを活かしてできる仕事」という価値を、仲介するプラットフォームをインターネット上に構築することで、それぞれの顧客にサービスを提供しています。
オペレーションモデル
オペレーションモデルに関しては、「フランチャイズ展開」が一例として挙げられます。
フランチャイズは、開業を目指す人に対して自社ビジネスのノウハウや一部業務の代行を提供し、その対価としてロイヤリティを受け取るというビジネスモデルになっています。コンビニや学習塾などは直営店舗だけではなく、このようなフランチャイズとして加盟している店舗もあります。
本部(フランチャイザー)は、ノウハウや一部業務の代行といったサービスを加盟店(フランチャイジー)に提供することで、対価として加盟料(ロイヤリティ)を受け取ります。
本部にはフランチャイズ展開をすることで、直営だけでの店舗展開よりも早く全国的に店舗拡大ができることや、加盟料を得られるメリットがあります。
一方、フランチャイジーにも、加盟料を支払うことで、その店の看板を使えること、ノウハウや業務を代行してもらえることなど、自己資金を貯めてゼロから開業するよりはビジネスを軌道に乗せやすいというメリットがあります。自社ブランドのコンビニを立ち上げるよりも、誰もが知っているコンビニのほうがスタートの集客で大きな差が付くことはイメージできるでしょう。
収益モデル
収益モデルに関しては、「サブスクリプション」(いわゆるサブスク)が一例として挙げられます。
サブスクリプションは、決まった期間に応じて決まった金額を顧客に支払ってもらうビジネスモデルになります。具体的には会員制のフィットネスクラブ、バーチャルオフィスなどが挙げられます。
サブスクリプションのメリットは、毎月の収益が安定しやすいことです。利用時に課金するタイプのフィットネスクラブや、ドロップインで利用できるコワーキングスペースなどは、毎月の利用状況に応じて売上が不安定になりがちですが、会員制の定額サービスになることで会員の利用状況に関わらず、毎月安定した売上を確保できます。
そのため、一度損益分岐点を超えてしまうと、よほどのことがない限り経営が傾くことがないという利点があります。ただし、提供するサービスによっては、初期投資がある程度必要であったり、毎月のランニングコストがかかったりする場合もあるので、創業時はいち早く損益分岐点を超えるために毎月の収支と向き合わなくてはなりません。
まとめ
ここで挙げた例に関しては、既に耳にしたことがあることも多いと思います。
改めてビジネスモデルという形で提示されると、自分が起業する事業に関しても考え方のヒントになるのではないでしょうか。今回はビジネスの入口として「戦略モデル」に特化して話を進めていきたいと思います。
どのような価値をどうやって顧客に提供するかが戦略モデル
戦略モデルは、「どのような価値をどうやって顧客に提供するか」を決めることだと言えます。
ビジネスモデルの中でもはじめに検討されるべきことであるため、今回は戦略モデルの考え方と具体例に整理していきます。まずここでは、戦略モデルの考え方について、ビジネスモデルキャンバスを紹介しながら整理します。
戦略モデルの考え方
戦略モデルは「どのような価値をどうやって顧客に提供するか」という方法を考えるものですが、どういった顧客(ターゲットユーザー)に提供するかということを定めることが先決です。
そもそも、売り手である自分たちだけではなく、買い手である消費者がいるからこそ、ビジネスが成立しますので、売り手の視点だけではなく買い手の視点も大切にする必要があります。
これは客観的に考えれば当然のことですが、自分が売りたいものに対する思いが強くなれば強くなるほど、意外と買い手の視点が薄れてしまうので、気を付けると良いでしょう。
そのうえで、どういった顧客に提供するのかということを考えます。
万人受けするものを提供するということも戦略の1つですが、ごく一部の人だけが熱狂してくれるものを提供することも戦略です。前提としてすべての顧客から評価されるサービスを提供しなくてはならないということはないということをしっかりと持ちましょう。
ターゲットユーザーが決まれば、その顧客たちにどのようなところを魅力に感じてもらえるかを考えたり、自分や自社のどのような強みや資源を活かせばそれを提供できるのかという現実的なことを考えたりしていくことが可能になるでしょう。
ビジネスモデルキャンバスを使ってみる
ビジネスモデルを考える際、1枚の紙にビジネスモデルを構成する要素を書き出してみることが役立ちます。
アレックス・オスターワルダー氏とイヴ・ピニュール氏は、ビジネスの構造を可視化したフレームワークである「ビジネスモデルキャンバス」を開発しました。この1枚のシートをなんとなく見たことがある人も多いのではないでしょうか?
根来龍之氏の著書でもこれと似た戦略モデルキャンバスが登場しますが、今回はそれぞれを詳しく解説することはしません。
自分自身のビジネスを客観的に整理したい、どのようなことを考えていて、あるいは考えられていないのかを明確にしたい、といった際にはフレームワークを使って頭の中を整理することはとても役立ちますので、ぜひ利用してみてください。
戦略モデルの具体例7選
ここでは、戦略モデルの具体例を7つ紹介したいと思います。
企業と個人とをつなぐことで利益を生む「クラウドソーシング」
クラウドソーシングは「crowd(群衆)」と「sourcing(調達)」から成る造語であり、ビジネスに必要な物品やサービスを調達したい企業と、その仕事を請け負いたい個人とを仲介するサービスになります。
もともと企業が社内業務を外部に委託する手段としては、他社に委託を行うアウトソーシングという手段がありましたが、個人の委託先を探すためには多大なコストを必要としていました。
しかし、インターネットの普及が進むと、企業と個人とを結びつけるプラットフォームのサービスが登場し、結果的に企業から個人への業務委託が増加することになりました。
クラウドソーシングの代表例としては、「ランサーズ」や「クラウドワークス」などがあります。
ランサーズに関しては2008年12月のサービスリリース以降、依頼総額は2,000億円を超えていると言われています。
クラウドソーシングの3つのタイプ
クラウドソーシングは、コンペ型、プロジェクト型、タスク型の3つのタイプに分類されます。
コンペ型 |
事前に発注料金が提示されていて応募者が完成品を提示する形式 (例)HPのロゴデザインを公募する |
プロジェクト型 |
複数の個人からの見積もりなどの提示を受け、特定の個人に業務を依頼する形式 (例)HP制作など専門性が求められる仕事を発注する |
タスク型 |
複数人に1つの業務を分割して発注する形式 例)アンケートのデータ入力などを専門性があまり高くない仕事を発注する |
クラウドソーシングの成立条件と注意点
クラウドソーシングは、プラットフォームを整備するビジネスモデルのため、業務発注を希望する企業と業務受注を希望する個人の両方を集める必要があり、企業と個人の直接取引よりも利便性や信頼性が高いことが求められます。
そのため、多くのクラウドソーシングサービスでは仕事を評価する仕組みが導入されており、受注者のスキルや能力が可視化できるようになっています。
プラットフォーム型のビジネスはサービスの乱立が進むと価格競争によって質が維持できなくなることが想定されます。そのため、市場での生き残りをかけたり、あとから参入したりするためには、分野を絞って差別化を行うことが一般的だと考えられます。ただし、中途半端な差別化では最終的には淘汰されてしまう可能性があります。
また、クラウドソーシングサービスのデメリットとして、企業と個人間の信頼関係が構築されてしまうことで、直接取引が行われてしまうリスクがあります。そのため、発注する側の企業よりも、プラットフォームを提供する側が仕事を受注する個人から信頼される必要があると言えます。
個人をつなげることで利益を生む「個人間取引」
クラウドソーシングが企業と個人とを仲介するサービスでしたが、個人間取引は個人と個人とを仲介するビジネスモデルになります。
個人間取引はインターネットが普及する以前も、週末のフリーマーケットのような形で存在していましたが、インターネットが普及してプラットフォームが形成されることで、より多くの個人同士を結び付けることが可能になりました。
個人間取引の代表例としては、スマホに特化したフリーマーケットサービスを展開する「メルカリ」やwebデザインや占いなどの個人スキルの売買に特化した「ココナラ」などがあります。
ココナラはそれまでのクラウドソーシングサービスを個人間に特化したことに独自性があります。
個人間取引の成立条件と注意点
個人間取引は、クラウドソーシングと同じく販売希望者と購入希望者の両方が一定規模で存在していることが必要不可欠です。プラットフォームが整備されることにより、相手を見つける手間を省略すること、直接取引と比較した際の安全性を確保することが仕組みとして重要になります。
そのため、例えば「ココナラ」では出品者も購入者も匿名で利用できるようになっており、取引後は双方の評価を公開するようになっています。
個人間取引は取引される商品やサービスが個人に依存することから、ビジネス自体が消滅するリスクがあります。特に「メルカリ」などのフリマサイトでは盗品などが出品されるケースが絶たず、こうした違法性のある取引を未然に防ぐための仕組み作りもプラットフォームの提供者には求められています。
クラウドソーシングの資金調達版である「クラウドファンディング」
クラウドファンディングは「crowd(群衆)」と「funding(資金調達)」から成る造語であり、クラウドソーシングの資金調達版ということができます。
ベンチャーキャピタルや銀行などからの融資に比べて各支援者からの融資額は少額となりますが、先進的な取り組みや独創性のあるプロジェクトなど、銀行などからの融資が望めないようなケースでも一定の資金調達ができる可能性があります。
クラウドファンディングの代表例としては、日本最大級のクラウドファンディングサービスである「Readyfor」があります。
また、個人と組織の資金の貸し借りをマッチングするソーシャルトレーディングに特化した融資型のクラウドファンディングサービスの「maneo」も存在します。
クラウドファンディングでの資金調達に関しては以下の記事も参考にしていただければと思います。
参考:クラウドファンディングで起業するには?~資金集めの方法とメリット・デメリットを解説~
クラウドファンディングの4つのタイプ
クラウドファンディングは、支援者に対して支払われる謝礼のタイプによって購入型、投資型、融資型、寄付型の4つに分類されます。
購入型 | クラウドファンディングによって開発した製品やコンテンツなど |
投資型 | 起業した会社の株式など |
融資型 | 支援額に対しての一定の利子や配当など |
寄付型 | 謝礼なし |
クラウドファンディングの成立条件と注意点
クラウドファンディングは、プロジェクトの品質が最も重要と言えます。多くの人が共感して支援したいと感じるものであり、かつそのプロジェクトの実現可能性が高いものを見極めていくことがプラットフォームの運営主体には求められるでしょう。
また、あと一歩で達成できるプロジェクトを支援したいと感じる人、これからスタートする新たなプロジェクトを一から支援したいと感じる人など、支援者にも様々なタイプがいると考えられることから、プロジェクトの進捗を可視化できる仕組みも重要と考えられます。
クラウドファンディングは、法規制との関連性に注意する必要があります。投資型の場合、第二種金融商品取引業者としての運営になり、融資型の場合は貸金業登録が必要になります。
先述した「maneo」に関しては、2019年時点で投資への配当が300億円分滞っており、集団訴訟へと発展しています。今後プラットフォームが乱立することに伴い、こうしたトラブルも多発することが想定され、法整備によってビジネスそのものが規制される可能性もあります。
使用されていないモノやヒトを共有することで利益を生むシェアリング
シェアリングは、使用されていないモノやヒト(労働力)を市場に出して共有するサービスになります。カーシェアリングや衣料品のシェアサービスなど、モノを個人間でシェアするというものが真っ先に頭に浮かぶかと思います。
また、クラウドソーシングの普及が進むと、個人の労働力を企業同士でシェアしているという見方もでき、ヒト(労働力)のシェアも進んでいると見方もできるでしょう。
シェアリングの代表例としては、民泊の仲介サービスを開拓した「Airbnb」や、「Uber」などのライドシェアがあります。
日本でも、未契約の月極駐車場のスペースや個人宅の空きスペースなどを1日単位で利用できるサービスを提供する「akippa」などがあります。
労働力のシェアという点では、すぐ働きたい人とすぐ人手が欲しい事業者をマッチングする「Timee」などもシェアリングという見方ができるでしょう。
シェアリングの成立条件と注意点
シェアリングは、使われていないモノやヒト(労働力)を個人間で仲介するサービスになるので、市場において需給バランスが崩れているモノやヒト(労働力)がマッチングされやすいという特徴があります。例えば、都市部では駐車場の確保が難しいという状況があるからこそ「akippa」のようなサービスが求められ、人気の観光地ではホテルの予約が難しいという状況があるからこそ「Airbnb」というサービスが成り立ちます。
また、シェアリング・ビジネスは、使用されていない時間帯に絞ってモノやヒト(労働力)を仲介させることに価値があり、適切なタイミングでマッチングさせるためには位置情報や本人確認、セキュリティに関する技術の活用が必要となります。そのため、ほとんどがスマホアプリを活用したサービスを展開しています。
シェアリング・ビジネスの課題は、信頼性や信用性をどのように担保するかという点です。例えば、民泊では利用者による騒音やゴミ出しなどの問題が過去に取り上げられたことがありました。こうしたトラブルはシェアリング・ビジネスの運営元のブランド力の低下につながるリスクがあります。
また、市場における需給バランスが崩れていることでサービスが成立する側面があります。そのため、都心部のコインパーキングなどが整備されたり、観光地のホテルの予約が問題なく取れる環境が整備されたり、需給バランスが改善されてしまうと、サービスそのものが不要になってしまうという可能性もあります。
強みのある業務や機能に特化して競争優位を構築するレイヤーマスター
特定の産業におけるバリューチェーン(※1)内の特定の業務や機能(レイヤー)に特化し、そこでの競争優位を構築する戦略をレイヤーマスターといいます。
パソコンの産業においては、CPUのレイヤーに特化する「Intel」やOSに特化する「Microsoft」などがあり、いずれかに特化することで競合優位を構築できます。
また、自転車用の部品や釣り具のメーカーである「シマノ」は、売上の8割が自転車部品の事業で構成されており、スポーツ自転車向けの部品は世界シェアの8割を誇っています。部品を扱う業者でありながらも、特定の業務や機能に特化しシェアを高めることで、自転車メーカーや販売店に対して開発支援や技術指導を行うなどの影響力を持つことができます。
※1:原材料や部品の調達活動、商品製造や商品加工、出荷配送、マーケティング、顧客への販売、アフターサービスといった一連の事業活動を、個々の工程の集合体ではなく、価値(Value)の連鎖(Chain)として捉える考え方
レイヤーマスターの成立条件と注意点
レイヤーマスターが成立するためには、バリューチェーン内のレイヤーを分離できることが前提として必要になります。自転車メーカーにとって、ブレーキやレバーなどの部品はバリューチェーンから切り離して他社に委託しても問題ないため、ブレーキやレバーを専門に扱う業者としてのポジションが成立することになります。
また、特定の業務や機能に特化して生き残るためには、レイヤー内で他社に対して競合優位を築くことが必要になります。そのため、レイヤーが存在し続けるものであること(自転車という完成品に対してブレーキという部品が必要不可欠である状況が続くなど)、その分野で高い技術を持ち続けることがレイヤーマスターの成立には必要となります。
ただし、高い技術さえ維持できていれば競合力を持続できるというわけではありません。同業他社がシェアを拡大したり、また他のレイヤーから進出してきたりすることもあります(自転車メーカーがブレーキの自社開発を進めるなど)。そのため、常に技術開発や市場展開に取り組んでいくことが大切になります。
バリューチェーン全体の最適化を図っていくオーケストレーター
特定の製品・サービスのバリューチェーン内の一部分を担いつつ、その他の部分に関してはアウトソーシングすることで、バリューチェーン全体の最適化を図っていくことをオーケストレーターといいます。
コンピューター販売大手の「Dell」は受注生産方式を採用し、製品の企画やマーケティング、販売などの部分を担い、部品の製造や調達、配送などは他社にアウトソーシングしています。
かつてコンピューター販売はいくつかの完成品をメーカーから小売店を通じて消費者に届ける仕組みでしたが、在庫を抱えて損失を生むリスクを抱えるものでした。そこで、「Dell」は受注生産方式によるコンピューター販売を手掛けながら、賛同してくれる部品メーカーや組み立て業者、配送業者を巻き込むことで、バリューチェーンを再構築しました。このようにオーケストラの指揮者のように参加者でありながら全体を指揮するという特徴があります。
「アスクル」は文具やオフィス用品などの通信販売・ネットショッピングを担う会社ですが、複数の卸や小売店を流通し在庫や物流ロスが発生していたバリューチェーンを、全国の文具小売店を自社の取扱販売店として構成することでバリューチェーンを再構築しました。
また、「IKEA」は組み立て済の家具を販売するという家具販売のバリューチェーンを、家具の配送や組み立てを消費者が担うというバリューチェーンに変革しました。
オーケストレーターの成立条件と注意点
オーケストレーターが成立するためには既存のバリューチェーンに非効率な部分があること、新しいバリューチェーンを構築する上でのメリットを外部の企業に提示できることが重要になります。
多くの場合は在庫ロスや物流ロスといった損失リスクを解消できることを丁寧に説明し、既存のバリューチェーンに残ることよりもメリットが大きいことを示してあげることが重要でしょう。
ただし、バリューチェーン内のプレイヤーから反発を受けて再構築が失敗するリスクや、業界団体などからの圧力を受けるケースなどもあります。また、協力業者が自社の事業領域に参入してくるケースもあります。特にオーケストレーターが販売に特化している場合などは、製造分野の協力業者が自社ブランドを立ち上げて販売分野に参入してくるリスクなども念頭に置いておく必要があるでしょう。
コア製品とセットで使う消耗品の継続販売で収益を上げる消耗品モデル
顧客に価値を提供するコア製品を安価で販売し、セットで使う消耗品を継続的に販売することで長期的な収益を上げるビジネスモデルを消耗品モデルといいます。
カミソリを販売する「ジレット」は、カミソリ本体と替え刃に分割し、頻繁に交換が必要となる替え刃単体を販売することで顧客を囲い込みました。
1985年にインクジェットプリンターを世界で初めて販売した「キャノン」は、本体を割安に抑え、消耗品である取替用のインクカートリッジを比較的高額で販売することで長期的な収益の源泉としました。
他にも、「ネスレ日本」は専用のコーヒーマシンとコーヒーカプセルに分割し、それまで存在しなかったコーヒーの消耗品モデルを登場させました。また、コーヒーマシンをオフィスや法人に無料でリースすることで、カプセルを継続的に購入してもらうネスカフェアンバサダーという制度も登場しました。
消耗品モデルでは、コア製品の広告宣伝は必要となりますが、コア製品購入後の消耗品の広告宣伝費はほとんど不要なため、長期的には収益が高くなるメリットがあります。
消耗品モデルの成立条件と注意点
消耗品モデルは消耗品がコア製品の補完製品になっていることが絶対条件になります。また、消耗品を自社で製造できる能力があること、もしくは消耗品製造に特化してくれる協力企業との関係を構築できることが成功のカギになるでしょう。
消耗品モデルは消耗品の広告宣伝費はほとんど不要ですが、コア製品の市場規模によって消耗品の収益性が決まるという特徴があります。そのため、コア製品のシェアを高めるための初期投資はそれ相応に必要となります。
消耗品モデルの注意点は、消耗品を低価格で販売するサードパーティーが登場すると自社製品が価格競争にさらされるリスクがあるという点です。コア製品で市場のシェアを獲得しても、同程度の品質を低価格で販売するサードパーティーが登場することで、安定した収益を継続して確保することが難しくなるリスクがあります。
また、消耗品モデルはコア製品を多く売るために広告宣伝費を投入しますが、この費用が収益の足かせになる側面もあるため、効果的なマーケティング戦略を考えていく必要があります。
まとめ
今回は「起業に向けてビジネスモデルを学ぶ①~戦略モデル編~」と題し、ビジネスモデルが戦略、オペレーション、収益の3つのサブモデルに分類されること、戦略モデルの考え方やビジネスモデルキャンバスについて整理をしてきました。
また、後半は「クラウドソーシング」、「個人間取引」、「クラウドファンディング」、「シェアリング」、「レイヤーマスター」、「オーケストレーター」、「消耗品モデル」の7つの戦略モデルについて、具体的な事例を紹介したり、それぞれの成立条件や問題点などを整理したりしました。
冒頭でも述べたとおり、起業にあたってビジネスモデルを学ぶことは必須ではありません。もちろん知らないからといって起業できないというわけではありません。
ただし、ビジネスの戦略やオペレーション、収益といった観点で自分が起業しようとすることを見つめてみることで、起業する前に自分のビジネスの課題を可視化することができるかもしれません。また、現在進行形で起業している人は、この後待ち構える問題点の解決策について先回りして対処することができるかもしれません。
今回の記事はビジネスについて網羅しているものではありませんが、少しでも皆さんのお役に立つことができれば幸いです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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