本記事では「フリーランス新法」について、以下のような内容を解説します。
- 法律の概要
- 施行日
- 対象者
- 義務項目
- 発注事業者の対応
- 違反時の罰則
フリーランス新法の施行によって、フリーランスと取引を行ううえでの明確な規則が定められました。
従来通りフリーランスと取引を行うと「知らぬ間に法律に違反していた」という事態も起こり得ます。
フリーランスに業務を発注する事業者は、義務項目や対応を確認して、適正な取引を行いましょう。
また、法律の恩恵を受けるフリーランスも、制度概要を正しく理解することが重要です。
知識を深めることで自分の身を守ることに繋がるため、ぜひ最後までご覧ください。
なお、本記事は一般的な情報提供を目的として作成しています。
フリーランス新法に関する個別具体的・専門的な助言が必要な場合は、適切な専門家に相談してください。
目次
フリーランス新法とは?
「フリーランス新法」とは、一言で説明すると「事業者と取引を行うフリーランス(特定受託事業者)を保護する法律」です。
フリーランス(特定受託事業者)と発注事業者の取引について、以下のような規則が定められています。
- 書⾯等による取引条件の明⽰
- 報酬⽀払期⽇の設定・期⽇内の⽀払い
- 禁⽌⾏為(受領拒否や買いたたき など)
- 募集情報の的確表⽰
- 育児介護等と業務の両⽴に対する配慮
- ハラスメント対策に係る体制整備
- 中途解除等の事前予告・理由開⽰
フリーランスは保護対象で、発注事業者に対する義務が定められています。
フリーランス新法の施行によって「知らぬ間に法律に違反していた」といった事態も起こり得て、罰則も定められているため、対象者や義務項目を確実に把握しましょう。
フリーランス新法の背景や目的
フリーランス新法の目的は、大きく以下の2つです。
- フリーランスと発注事業者の取引の適正化
- フリーランスの就業環境の整備
近年は働き方の多様化によって、フリーランスとしての働き方が普及しました。
各人のニーズに応じた柔軟な働き方ができる環境になった一方で、以下のようなトラブルも生じています。
- 報酬の未払い
- 支払い遅延
- 成果物の受取拒否
- 作業範囲の齟齬
特に、フリーランスは取引上弱い立場に置かれやすいため、泣き寝入り状態となる例も多いです。
以前から「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が定められていましたが、法的な強制力はありませんでした。
そこで、上記のようなトラブルを防止するために「フリーランス新法」が制定されました。
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フリーランス新法の適用はいつから?
フリーランス新法は、2024年11月から施行されます。
3年後である2027年頃には、施行状況に応じて内容を見直す規定も存在します。
なお、可決日は2023年4月28日で、同年5月12日に公布されました。
フリーランス新法の対象者
フリーランス新法の対象者は以下の通りです。
- 発注事業者
- フリーランス(特定受託事業者)
それぞれを詳しく解説します。
発注事業者
「発注事業者」とは、文字通りフリーランスに対して業務を発注する事業者を指します。
具体的には、以下のいずれかに該当する事業者です。
- 特定業務委託事業者:従業員を使用する事業者*(個人・法人問わず)
- 業務委託事業者:従業員を使用しない事業者(個人・法人問わず)
*法人の場合、代表者以外の役員が存在する場合を含む
なお、フリーランス新法における従業員の定義は「週20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」です。
短期間もしくは短時間の使用は含まれません。
特定業務委託事業者は、業務委託事業者よりも厳しい規制を受けます。
具体的には、業務委託事業者は後述する「書⾯等による取引条件の明⽰」のみがフリーランス新法における義務項目です。
また、業務委託事業者には「フリーランスに業務を発注するフリーランス」も含まれます。
フリーランス(特定受託事業者)
フリーランス新法における「フリーランス」とは、原則として以下のいずれかに該当する者です。
- 従業員を使用しない個人
- 一名の代表者以外に役員がいなく、従業員を使用しない法人
これらを「特定受託事業者」と呼びます。
本業で給与所得を得ており、副業で事業者から業務委託を受けている場合も「特定受託事業者」に該当します。
また、フリーランス新法における従業員とは「労働時間が20時間以上/週かつ31日以上の雇用が見込まれる者」です。
「週15時間のみの労働」や「2週間の短期雇用」などの例では、上記の従業員の範囲外となります。
ただし、形式的には業務委託契約でも、実質的には労働基準法の労働者として扱われている場合は、フリーランス新法の適用外となります。
このケースでは、労働者は労働基準法で保護されます。
フリーランス新法の対象となる取引
フリーランス新法の対象となる取引は、事業者からフリーランスへの「委託」です。
不特定多数の消費者を対象とする「売買」は含まれません。
委託となる主な取引は以下の通りです。
- 物品の製造・加工委託
- 情報成果物の作成委託
- 役務の提供委託
フリーランス新法の7つの義務項目
フリーランス新法では、発注事業者に対して以下の7つの義務項目が定められています。
- 書⾯等による取引条件の明⽰
- 報酬⽀払期⽇の設定・期⽇内の⽀払い
- 禁⽌⾏為
- 募集情報の的確表⽰
- 育児介護等と業務の両⽴に対する配慮
- ハラスメント対策に係る体制整備
- 中途解除等の事前予告・理由開⽰
各要素を詳しく解説します。
なお、上述した「特定業務委託事業者」はすべての義務項目を順守する必要がある一方で、業務委託事業者は「書⾯等による取引条件の明⽰」のみ対応が必要です。
書⾯等による取引条件の明⽰
フリーランスに業務委託を行う場合は、取引条件を書面や電子的方法(メールやチャットツールなど)で明示する必要があります。
つまり「口約束ではなく、契約書もしくは電子記録を残す」ということです。
具体的には、以下の要素の明示が必要です。
- 発注事業者とフリーランスの名称
- 業務委託を行う旨を合意した日
- フリーランスに委託する業務内容
- 納品日や作業日
- 納品先や作業場所
- 検収の完了日(検収がある場合)
- 報酬額・支払期日
- 支払方法(現金以外で支払う場合)
明示方法は発注事業者が選択できます。
ただし電子的方法を選択した場合、フリーランスから書面の交付を求められたら、原則として書面での交付が必要です。
報酬⽀払期⽇の設定・期⽇内の⽀払い
発注事業者は、発注した給付を受領した日から60日以内のできる限り早い日に報酬の支払期日を設定し、期限内に支払いを行う必要があります。
支払期日は「毎月〇日締切・翌月〇日支払い」のように、具体的な日付を明記することが大切です。
なお、業務の再委託の場合は、必要事項を明記したうえで、例外的に元委託支払期日から30日以内のできる限り早い日に支払期日を設定できます。
禁⽌⾏為
フリーランス新法では、1ヶ月以上の業務委託を行う発注事業者に対して以下の禁止行為を定めています。
禁止事項 | 詳細 |
受領拒否 |
正当な理由なく委託した物品や成果物の受取を拒むこと |
報酬の減額 | 業務委託時に定めた報酬の額を減額すること |
返品 | フリーランスに責任がないにもかかわらず、委託した物品や成果物を受領後に引き取らせること |
買いたたき | 通常支払われる対価と比較して極端に低い報酬額を定めること |
購入・利用強制 | 正当な理由なく発注事業者が定める商品等を強制的に購入・利用させること |
不当な経済上の利益の提供要請 | 業務とは無関係な目的のために金銭や役務などを提供させ、フリーランスの利益を不当に害すること |
不当な給付内容の変更 ・やり直し | フリーランスに責任がないにもかかわらず、費用を負担せずに給付内容の変更や納品後のやり直しをさせること |
募集情報の的確表⽰
発注事業者がフリーランスを募集する際は、募集情報について虚偽または誤解を生じさせる表示をしてはいけません。
また、募集情報は正確かつ最新である必要があります。
例えば、以下のような募集内容はフリーランス新法違反となります。
- 実際の報酬額よりも高額な募集情報を表示
- フリーランスの募集と労働者の募集が混合
- いつの時点の募集情報かを記載しない など
育児介護等と業務の両⽴に対する配慮
6ヶ月以上の業務委託を行う発注事業者は、フリーランスが育児や介護などと業務を両立するための配慮を行う必要があります。
具体的には、フリーランスからの申出があった際は、以下の3つの配慮が必要です。
- 1.申出内容の把握
- 2.取り得る選択肢の検討(日程調整や取引先への確認 など)
- 3.配慮内容の伝達・実施or配慮不実施の伝達・理由説明
申出があったにもかかわらず、無視したり、対応を検討しなかったりすると法令違反となるため要注意です。
ハラスメント対策に係る体制整備
発注事業者は、ハラスメントによってフリーランスの就業環境を害さないための体制整備を行う必要があります。
ハラスメントの代表的な種類は以下の通りです。
- セクハラ(性的な言動 など)
- マタハラ(妊娠・出産時の嫌がらせ行為 など)
- パワハラ(取引上の優位的な立場を利用した精神的な攻撃や過大な要求 など)
また、具体的に整備すべき体制の例を紹介します。
- ハラスメントを行ってはならない旨を明確化・周知
- ハラスメントを受けた方に対する相談体制の確立
- 従業員への研修等の実施 など
中途解除等の事前予告・理由開⽰
6ヶ月以上の業務委託契約で、契約の解除や不更新を行う際は、契約満了日の30日前までにフリーランスに予告する必要があります。
ただし、以下の例外事由に該当する場合は、事前予告が不要です。
- やむを得ない事由(災害など)により予告が困難
- フリーランスに再委託していて、上流の事業者の契約解除などによって直ちに解除せざるを得ない
- 業務委託の期間が30日以下など短期間
- 中途解除の原因がフリーランスにある
- フリーランスの事情で相当な期間、個別契約が締結されていない(基本契約がある場合)
事前予告は書面かファックス、電子メール等で行う必要があります。
フリーランス新法の罰則
フリーランス新法には罰則規定も定められています。
発注事業者がフリーランス新法に違反した場合、フリーランスは公正取引委員会や中小企業庁、厚生労働省に対して申出が可能です。
上記の行政機関は、申出の内容に応じて発注事業者に報告徴収や立入検査をして、以下のような対応を行います。
- 指導・助言
- 勧告
- 命令・公表(勧告に従わない場合)
- 50万円以下の罰金(命令違反の場合)
なお、発注事業者は、フリーランスによる行政機関への申出を理由に、契約解除等を行ってはいけません。
フリーランス新法で発注事業者が対応すべき5つのポイント
フリーランス新法の施行によって対応が必要な事業者は、主に発注事業者です。
フリーランス新法違反にならないよう、特に以下の5つのポイントは必ず確認しましょう。
- 取引先がフリーランス新法の対象かを確認
- 契約書の見直し
- 支払期日の管理
- 募集情報の見直し
- 業務環境の見直し
各要素を詳しく解説します。
取引先がフリーランス新法の対象かを確認
まず、取引先がフリーランス新法の対象か否かを確認しましょう。
フリーランス新法の対象となるフリーランス(特定受託事業者)は、原則として以下のいずれかに当てはまる方です。
- 従業員を使用しない個人
- 一名の代表者以外に役員がおらず、従業員を使用しない法人
これらに該当する場合は、取引上の義務が生じます。
一方「従業員を雇用している個人・法人」などは、基本的にフリーランス新法の適用外です。
ただし「労働時間・期間が週20時間未満もしくは31日未満の雇用者」はフリーランス新法における従業員には該当しない点に留意してください。
契約書の見直し
フリーランスへの依頼を口頭で行っている場合、書面や電子的方法で契約を締結しましょう。
また、契約書等を作成している場合も、以下の内容が記載されているかを確認してください。
- 発注事業者とフリーランスの名称
- 業務委託を行う旨を合意した日
- フリーランスに委託する業務内容
- 納品日や作業日
- 納品先や作業場所
- 検査の完了日(検査がある場合)
- 報酬額・支払期日
- 支払方法(現金以外で支払う場合)
契約内容の変更が必要な場合は、フリーランスの合意のもとで新たな契約書を作成します。
支払期日の管理
フリーランス新法では、成果物の受領日から60日以内のできる限り早い日に報酬を支払う必要があります。
支払いが遅延しないように、支払期日を確実に管理しましょう。
特に「月末締め・翌々月末払い」を採用している場合、60日を超える可能性があります。
現在、60日の支払期日を超えるスケジュールを採用している場合は、社内体制の調整が必要です。
なお、再委託の場合は例外的な支払期日となるケースがあります。
募集情報の見直し
フリーランスを募集する際は、募集情報を見直しましょう。
- 虚偽もしくは誤解を生じさせる表示ではないか
- 正確かつ最新の内容であるか
特に以下の5つの事項については、可能な限り具体的な情報を記載しましょう。
記載事項 | 具体的な内容例 |
業務内容 | ・成果物・役務の内容 ・応募資格(資格や経験など) ・検収基準 ・成果物の権利の扱い など |
業務に従事する場所や時間、期間に関する事項 | 業務を遂行する場所・時間・期間・納期 |
報酬の内容 | ・報酬の金額・算定方法 ・支払期日 ・支払方法 ・諸経費の取り扱い など |
契約の解除・不更新についての事項 | ・契約の解除事由 ・途中解除時の費用や違約金の取り扱い |
フリーランスの募集を行う事業者についての事項 | 発注者の名称や業績 |
業務環境の見直し
フリーランス新法では、以下義務も定められています。
- 育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(6ヶ月以上の業務委託の場合)
- ハラスメント対策に係る体制整備義務
これらの義務に対応できるよう、業務環境を見直しましょう。
具体的には「ハラスメントを行ってはいけない旨の明確化・周知」や「相談窓口の設置・フリーランスへの周知」などです。
また、フリーランス新法では複数の禁止事項も定められているため、社内での情報共有や研修などを実施することも大切です。
フリーランス新法に関するよくある質問
ここでは、フリーランス新法に関するよくある質問にご回答します。
- フリーランス新法の正式名称は?
- フリーランス新法の条文はどこで確認できる?
- フリーランス側で対応すべきことはある?
- フリーランス新法と下請法の違いは?
- フリーランスのトラブルはどこに相談したらいい?
フリーランス新法の正式名称は?
フリーランス新法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。
他にも、通称で「フリーランス・事業者間取引適正化等法」や「フリーランス保護法」と呼ばれることもあります。
フリーランス新法の条文はどこで確認できる?
フリーランス新法の条文は「厚生労働省のホームページ」や「e-Gov 法令検索」などで確認できます。
フリーランス側で対応すべきことはある?
フリーランス新法で対応が必要な事業者は、主に発注事業者です。
しかし、フリーランスも法律の概要や発注事業者に課される義務を確認しましょう。
法律の内容を適切に理解していれば、業務を受注する際に不当な扱いを受けるリスクを防止できます。
フリーランス新法と下請法の違いは?
下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは、発注者が下請業者に依頼した業務について、料金の減額や支払遅延、不当な返品などを禁止する法律です。
フリーランス新法とは異なり、下請法は建設工事は適用対象外で、適用対象は以下の4つに限定されています。
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
また、下請法には親事業者の資本金が1,000万円以上という要件もあるため、フリーランス新法の方が幅広い事業者を保護できるといえます。
フリーランスのトラブルはどこに相談したらいい?
フリーランスが発注事業者とトラブルになった際は、第二東京弁護士会が運営する「フリーランス・トラブル110番」を無料で活用できます。
フリーランスに関する法律問題に強い弁護士に電話やメール、対面などで相談可能です。
また、発注事業者がフリーランス新法に違反している場合は、公正取引委員会や中小企業庁、厚生労働省に対して申出ができます。
発注事業者はフリーランスが行政機関に申出を行ったことを理由に契約を解除できないため、自分の身を守るためにも検討しましょう。
まとめ
今回は、フリーランス新法の概要や義務項目、対応すべきポイントなどを解説しました。
フリーランス新法は、フリーランスの取引の適正化や就業環境の整備を目的とした法律です。
発注事業者に7つの義務項目が定められており、違反すると行政機関からの命令・公表や罰金などが科される可能性もあります。
中には「知らぬ間に法律に違反していた」といった事態も起こり得るため、法律の内容や対応を確認して、フリーランスと適法な取引を行いましょう。
また、フリーランスが義務を負う法律ではありませんが、理解を深めることで自分の身を守れるようになるため、ぜひ参考にしてください。