現在は最低資本金制度の撤廃や働き方改革による副業の推進、IT技術の発達などによって、規模の小さい起業である「スモールビジネス」が注目を浴びています。
起業と聞くと「会社を退職し、莫大な資金を借り入れて事業を立ち上げる」といったイメージを持つ方も多いです。しかしスモールビジネスならば、少額の資金で会社を辞めずとも起業が可能です。
そのため、リスクを抑えたい方や自分に合った働き方をしたい方にピッタリな起業方法と言えます。
そこで今回は、スモールビジネスの概要やメリット・デメリット、成功例、おすすめのビジネスアイデアなどを解説しているため、ぜひ参考にしてください。
目次
スモールビジネスとは
スモールビジネスとはその名の通り「規模の小さい事業」を指します。ただし明確な定義が定まっているわけではありません。
通常は個人事業主やフリーランス、小規模事業者などがスモールビジネスと呼ばれる傾向にあります。
これらの共通の特徴は、個人の裁量や力量、労働対価に対して得られる報酬がビジネスのベースである点です。労働対価に対して得られる報酬がベースのため、利益が一切出ないケースは少ないですが、同時に莫大な売り上げを期待することも難しいです。
スタートアップ・ベンチャーとの違い
スタートアップやベンチャーも、起業時は小規模なケースが多いです。しかし、これらは基本的にスモールビジネスとは呼ばれません。
スタートアップとは、新たな市場を開拓して事業を立ち上げるビジネスの形態です。成功したら莫大なリターンを望め、事業規模の急激な拡大の可能性もあります。多くの初期資金を投入するケースも少なくありません。
また、ベンチャーとは革新的なサービスや商品、技術を駆使して急成長をしているような企業を指して使われます。報酬が労働の対価とは限らず、初期資金が少なくないケースもあります。また、ベンチャー企業は自他に対して用いる言葉ですが、スモールビジネスは基本的に自に対して用いるのが一般的です。
スモールビジネスのメリット4選
起業時にスモールビジネスを選ぶと、一般的な起業やスタートアップと比較して様々なメリットを受けられます。メリットを最大限に活かせれば、事業の成功が大きく近付くでしょう。
ここでは、スモールビジネスのメリットを4点解説します。
資金が少なくても起業ができる
初期資金を抑えて起業ができる点がスモールビジネスのメリットです。
莫大な準備金や借入の手続きは不要であるため、起業に踏み切りやすくなります。
また、初期資金を抑えられればそれだけ起業のリスクが減少します。そのため、万が一事業で失敗した際でも負債は残らず、再起業や再就職がしやすいです。
従来は「起業=リスク」といった考え方もありましたが「ビジネスに興味があるがリスクを取れない方」でも立ち上げやすい事業形態と言えるでしょう。
ビジネス全体に関われる
ビジネス全体に関われる点もスモールビジネスのメリットです。
スモールビジネスの場合、従業員がいない、もしくは極少数である場合が多いです。そのため、事業の立ち上げから仕事の受注、納品、請求まで全ての仕事に携われます。
従業員が多く、役割が分担されている事業形態では中々難しいでしょう。
ビジネス全体に携われると、様々な知識やスキルを習得できます。その結果、事業拡大の際に上手くいく要因となるだけでなく、転職やキャリアアップも有利になります。
また、仕事の達成感が向上し、より事業にやりがいを感じる要因となる可能性もあります。
場所や時間に囚われない働き方ができる
スモールビジネスでは時間や場所に囚われない働き方ができます。
スモールビジネスの場合、店舗の営業時間や明確な就業時間が定まっていないケースが多いです。また、パソコン1台で仕事ができるケースも多いため、自由な場所、自由な時間に働きやすくなっています。
一方で規模が大きいビジネスの場合、就業時間の定めや営業時間の関係から、自身の生活に制限がかかるケースも少なくありません。
例えば家事や育児の合間や仕事終わりの夜間を中心に働くことも十分に可能です。また、業務量を抑えて、プライベート重視の働き方もできるでしょう。
他にも、ノマドワーカーのようにカフェや旅先など、場所を変えて業務を行いやすい点もスモールビジネスの魅力です。
ニッチな市場を選びやすい
スモールビジネスは規模の小さいニッチな市場で戦いやすい点もメリットです。
1人もしくは少人数で事業の運営を行うスモールビジネスの場合、大企業のような大規模な年商を上げる必要はありません。そのため、消費者が少ないニッチな市場でも十分にビジネスとして成立します。
むしろライバル企業との競争が少ないニッチな市場で勝負すべきとも言えます。規模の小さい企業が、既に市場での立ち位置を確立している大企業と対等に戦うのは決して簡単ではないためです。
ニッチな市場を選びやすいため、自身の趣味や好きなことを活かしやすい点も魅力です。
スモールビジネスのデメリット3選
様々なメリットがあるスモールビジネスですが、いくつかのデメリットも存在します。これらのデメリットが事業の足かせになる可能性も存在するため、メリット・デメリットを適切に把握し、比較できるようにしましょう。
ここではスモールビジネスのデメリットを3点解説します。
他者からの信用力が低い可能性がある
スモールビジネスの場合、他者からの信用が低い可能性があります。
スモールビジネスの際は個人事業主を選ぶ方も多いですが、個人事業主は法人と比較して社会的な信用力が低めです。中には法人以外とは取引を行わないと決めている企業も存在します。
また、法人化したとしても、年商の低さが問題になるケースもあるのです。年商の大きさは実際の利益とは異なりますが、事業規模の大きさとしての目安となります。
同じ条件の取引先候補があるとしたら、年商の大きい企業の方が倒産等のリスクが少ないと判断される可能性がある点に注意が必要です。
収入が安定しない可能性がある
起業をしたばかりの時期は、どのような事業形態であっても収入が安定しないリスクがあります。しかしその中でも、特にスモールビジネスで注意すべき点があります。
スモールビジネスは労働の対価として報酬を得るビジネスモデルが多いです。つまり、経営者が稼働できなくなったら、その時点で収入が途絶える可能性も大きいです。
これが大人数の法人であれば、他のメンバーが欠員を補えるでしょう。しかし、1人もしくは少人数での運営の場合は注意が必要です。
このようなリスクを負わないためにも、少しずつ労働力ではなく仕組みが収益を生む組織作りを行うことが重要と言えるでしょう。
必要な知識やスキルが多い
スモールビジネスの運営では必要な知識が多いです。
1人もしくは少人数での運営であるため、法的手続きや会計業務、営業、マーケティングなどの経営に必要な知識・スキルを網羅しないといけないためです。
税理士や司法書士、コンサルタントの活用も1つの手ですが、小さい事業規模の中で支払う報酬の金額は負担になる可能性もあるでしょう。
大人数で運営する法人であれば、自身の担当業務のみを理解していれば良いため、スモールビジネスのデメリットとなります。
スモールビジネスに向いている業種例・アイデア8選
スモールビジネスは、事業所や特別な設備を持たない事業形態が向いています。事業所の取得には賃料の10ヵ月程度の初期費用が必要であるためです。
また、事業所を持たなければ賃料の固定費がかからず、小さい収入でも十分に利益が出せます。
そのため、パソコンで完結する仕事や出張型の仕事が特におすすめです。
ここでは、スモールビジネスに向いている職種例・ビジネスアイデアを8つ紹介します。
ネットショップ
ネットショップとは、インターネットを通じて商品を販売するビジネスです。
店舗型のショップと比較して固定費を抑えられるだけでなく、全国の消費者をターゲットにできる点も魅力となります。
実際に市場規模は拡大傾向にあり、出店方法を選べば特別な知識も不要です。参入のハードルが高くないため、業種選びで悩んでいる方におすすめです。
ネットショップ運営のメリットや出店方法、開業までの流れは以下の記事で詳細に解説しています。興味のある方はぜひご覧ください。
Webサイトの運営
Webサイトの運営は、アフィリエイトやサイトに表示した広告で報酬を得るビジネスモデルです。
パソコン1台で参入ができ、月々の固定費も1000円程度~で運営できます。
通常は、サイトのPV数に比例するように収益が上がっていきます。そのため、収入に上限はなく、中には億単位の年商を達成している方もいるのです。
ただし、十分な収益が生じるまでに一定の期間が必要な点に注意が必要です。また、どれだけ稼働してもPVが取れなければ収益も生まれない点がデメリットと言えるでしょう。
動画配信
YouTubeなどの動画配信プラットフォームに動画を投稿し広告収入や、企業案件の報酬を得るビジネスモデルです。
現在は動画配信の市場が拡大されており、再生数によっては青天井の収入を得ることができます。
また、現在はライブ配信による投げ銭のようなシステムも増えており、収入の得方も多様化している点もポイントです。
ただし、収益が生じるまでは時間がかかり、稼働時間に比例して収益も上がるわけはない点に注意が必要です。
プログラマー
プログラマーは前職などで得た専門的な知識を活かせる点がおすすめの理由です。多くの場合は業務委託の形で成果物を納品し、報酬を得るビジネスモデルとなります。
需要があり専門的な知識が必要なため、報酬は高額な傾向があります。
ただし、知識やスキルや全くない状態での参入は難しいです。初心者が参入するには、事前のスキル習得が重要と言えます。
コンサルタント
コンサルタントとは、相談を受けたクライアントの課題について問題点や解決策を提案する仕事です。
一言でコンサルタントといっても以下のように様々で、自分の得意分野を仕事にできる点が魅力です。
・戦略コンサルタント
・ITコンサルタント
・会計・財務コンサルタント
・人事コンサルタント
ただし、第三者の問題点を把握し、的確な解決策を提案できるレベルの知識が必要です。また、相談だけでなく、顧客獲得の業務も同じレベルかそれ以上に重要となる点に留意しましょう。
代行業
代行業とはその名の通り、個人や企業の業務や生活を代行する仕事です。
行動の数だけ代行業の種類があると言えるでしょう。具体的には以下のような種類があります。
・家事代行
・退職代行
・墓参り代行
・買い物代行
・保証人代行
・ベビーシッティング代行
・ペットシッティング代行 など
特段の資格やスキルを要しない仕事も多いです。
どのビジネスアイデアにも共通して言えますが「どのような人がなぜ、いつ頼むか」を明確にして代行する業務を選ぶと良いでしょう。
レンタル業
現在はものを購入ではなく、シェアという考え方も増えています。そこに着目したレンタル業もおすすめです。
レンタルできる商品は以下のように多岐に渡ります。
・衣類
・アクセサリー
・自動車
・スペース
・専門機器
レンタルのため一度商品を仕入れればその後の費用は抑えられます。ただし、仕入れの段階で一定の費用が必要な点に注意が必要です。
キッチンカー
飲食業をスモールビジネスで始めたい方はキッチンカーという選択肢もあります。
通常の飲食業と比較して固定費がかからないうえに、現在増加中の業態でもあります。
ただし、キッチンカー自体の取得費や、営業許可の取得などが必要となる点に留意しましょう。
スモールビジネスで成功するためのポイント5選
スモールビジネスは初期資金がかからないため、大きな失敗に繋がりにくい形態です。しかし、全員が必ず成功できるわけでもありません。
そのため、成功のポイントを適切に抑えてアドバンテージにしましょう。
ここでは、スモールビジネスの成功のポイントを5点解説します。
起業準備を入念に行う
いくら小さい資本で起業できるといっても、準備を怠ってはいけません。独立前に入念な起業準備を行いましょう。
起業準備の内容は事業の実態によっても異なりますが、以下のような取組みがあります。
・事業計画書の作成
・必要資金の準備
・スキルや知識の習得
・人脈の形成
特に事業計画書は成功に影響を与える大きな要因です。事業の概要や競合調査、資金計画を立てて、繰り返しシミュレーションを行いましょう。
必要な起業準備については以下の記事で詳細に解説しています。起業を決心した際にぜひご覧ください。
自分に合った起業形態を選択する
起業と聞くと「株式会社の設立」のイメージを持つ方も多いですが、実は様々な選択肢があります。
その中でもおすすめの選択肢は「個人事業主」と「合同会社」のいずれかです。
個人事業主の開業には法的な費用がかからず、手続きも容易です。1人で起業を行う際は真っ先に候補になる形態となるでしょう。
他方で合同会社には10万円程度の法的費用を要しますが、株式会社と比較すると安価で、手続きも容易です。また、個人事業主よりも社会的な信頼感があるため、法人相手の取引が主な場合でも安心です。
法人の形態の1つである合同会社については以下の記事で詳細に解説しているため、ぜひ参考にしてください。
当面の生活費・運転資金を準備する
スモールビジネスであっても一切の資金が不要なわけではありません。
備品等の購入に使う起業資金を準備しましょう。また、起業後すぐに利益が出るとは限らないため、当面の運転資金や生活費を準備する点も重要です。
生活費については、最低6ヵ月分あれば安心と言えます。運転資金が足りないと経営も焦ってしまい、結果として誤った方向で運営してしまう恐れがあるため注意が必要です。
副業起業も有力
スモールビジネスで起業を行う場合は副業でのスタートもおすすめです。スモールビジネスならば、店舗を持たずに空いた時間で事業ができるため、副業との相性も非常に良いです。
副業でのスタートであれば事業に成功しなくても、会社員としての給与が保証されています。また、事業を体験してから経営者に向いているか否かを判断できる点も大きなメリットです。
そのため「会社員を辞めるリスクが取りにくい」といった方は副業から始めてはどうでしょうか。
バーチャルオフィス・レンタルオフィスの利用も検討
スモールビジネスの場合、バーチャルオフィスやレンタルオフィスの活用もおすすめです。
バーチャルオフィスとは事業用の住所をレンタルできるサービスで、レンタルオフィスとは自分だけが使用できる個室をレンタルできるサービスを指します。
スモールビジネスで多いのが「自宅を住所・事業所として仕事を行う」です。しかし、自宅を住所や事業所としてしまうと、以下のようなデメリットが生じます。
・アパートの住所による信頼性の低下
・事業所の公開や郵便物の受け渡しによるプライバシーの問題
・自宅で仕事を行うことによる集中力の低下
この際にバーチャルオフィスを活用すれば、通常の事業所よりも圧倒的に安価で、一等地ビルの住所を使用でき、プライバシーも守られます。
また、レンタルオフィスならば生活と仕事を切り離したい方も安心です。
中には事業をサポートしてくれる業者も存在するため、ぜひ前向きに考えてください。
スモールビジネスの成功例
実際にスモールビジネスから成功している起業家は数多く存在します。
最後に、スモールビジネスの成功例をご紹介します。
グリー株式会社
グリー株式会社はインターネットサービスのGREEの運営や広告、投資、SNS事業など、様々な分野で有名な企業です。
グリーは創業者の田中良和氏がSNSのGREEを開発したことで始まりました。GREEの開発は当時勤めていた楽天株式会社の従業員として働きながら、勤務時間外に行っていました。
また、サービス公開直後も副業での運営を行っており、規模の拡大によって手が回らなくなった段階で起業という選択を取った形です。
このように、実際に独立するのはサービスが軌道に乗ってからでも十分です。既にサービスが成功しているため起業の失敗率を抑えられ、独立後も収入が途絶えない例と言えるでしょう。
株式会社みさきホールディングス
株式会社みさきホールディングスとは通販支援や経営者のベンチャー支援を行っている企業です。
ファビウス株式会社の創業者である「三崎優太」氏のビジネスは、アフィリエイト広告から始まりました。高校時代に始めたアフィリエイトで月収約400万円を得て、高校卒業後に「株式会社メディアハーツ」の起業に踏み切りました。
起業後は健康食品や美容製品の企画・開発や、健康ECブランドの運営など、事業の多角化を進め、2020年に株式会社みさきホールディングスを立ち上げた流れです。
このようにスモールビジネスから始めて、軌道に乗ったら多角化や法人化を行う選択肢がおすすめです。スモールビジネスから始めても将来的に大規模な事業まで育てられる例と言えるでしょう。
まとめ
今回はスモールビジネスのメリット・デメリットやおすすめのビジネスアイデアなどを解説しました。
起業時にスモールビジネスを選択すれば、小さな資金でリスクを最小限に抑えて経営が可能です。また、時間や場所に囚われない働き方ができ、スキルアップもしやすいです。
「リスクが怖くて起業に踏み切れない」「ニッチな好きなことで勝負したい」といった方にもピッタリの起業形態であるため、ぜひ選択の1つとしてください。
この記事の執筆者
久田敦史
株式会社ナレッジソサエティ 代表取締役
バーチャルオフィス・シェアオフィスを通して1人でも多くの方が起業・独立という夢を実現し、成功させるためのさまざまな支援をしていきたいと考えています。企業を経営していくことはつらい面もありますが、その先にある充実感は自分自身が経営をしていて実感します。その充実感を1人でも多くの方に味わっていただきたいと考えています。
2013年にジョインしたナレッジソサエティでは3年で通期の黒字化を達成。社内制度では週休4日制の正社員制度を導入するなどの常識にとらわれない経営を目指しています。一児のパパ。趣味は100キロウォーキングと下町の酒場めぐり。
【学歴】
筑波大学中退
ゴールデンゲート大学大学院卒業(Master of Accountancy)
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